研究課題/領域番号 |
16K16467
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
加藤 健治 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30771216)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Neural Prosthesis / Brain-Computer Interface / 随意運動制御 / 運動機能再建 / 脳卒中片麻痺 |
研究実績の概要 |
本申請では、脳卒中片麻痺患者において運動機能と運動学習記憶を同時に増強する神経補綴装置の開発を目指す。実施計画に基づき、今年度は、運動イメージや運動遂行に伴って出現するAlpha(8-13 Hz)、Beta(14-35 Hz)帯域の事象関連脱同期現象、および記憶定着に関連する特徴的脳波(e.g. 睡眠紡錘波、睡眠徐波)のオンライン推定法の開発を進めた。具体的には、小型マイコンを用いて頭頂部から導出した頭皮脳波を記録し、各特徴脳波に含まれる周波数帯域成分をフィルタし、その周波数帯における瞬時振幅をロックインアンプを用いて計算することで達成した。健常成人20名において、安静時および運動イメージ中の頭皮脳波記録を実施し、各特徴脳波成分における推定精度および推定時刻について、フーリエ変換を用いた従来法との比較を行った。具体的には、ヒルベルト変換を行った波形を理想信号とし、フーリエ変換を用いた従来法及びロックインアンプを用いた提案法で推定された脳波信号の相互相関解析を行い、最大相関係数を振幅推定精度、最大相関係数をとった時間を遅れ時間と定義し、両手法の有用性を比較した。その結果、研究で提唱するロックインアンプを用いた推定法では、フーリエ変換による推定法と比較して、各特徴脳波の検出時間が約400 ms短縮、最大相関係数が1.15倍増加、最大相関係数のトライアル間分散が0.78倍に減少することがわかった。これらの結果は、ロックインアンプを用いた提案法が、推定時刻、推定精度、推定正確度の点において優れており、この手法を用いることで、脳状態依存的な電気刺激を可能にする神経補綴が作成できる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、脳波特徴量の瞬時推定アルゴリズムの開発が想定以上に進捗し、健常成人での条件検討もほぼ完了した。これらの成果については、現在査読付き国際会議論文に投稿中である。同時に、推定精度・正確度において提案法の有効性が実証されたものの、推定時刻はまだ数100 msを要することから、改良の余地があると考えている。現在、脳波推定アルゴリズムの開発に実績のあるコペンハーゲン大学と連携し、脳波推定アルゴリズムの共有・改良を進めている。具体的には、最適なパラメータの探索や、コペンハーゲン大学が独自に開発中のPitch Tracking法を取り入れるなどして、抜本的に改良することも想定して検討する。これらの事項を総合的に判断し、本申請の進捗状況はおおむね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、これまで開発してきた脳波特徴量の瞬時推定アルゴリズムを用いて、脳状態依存的な電気刺激を可能にする神経補綴の作成を進める。そして、開発した神経経補綴を用いて運動課題を行ったときの学習習熟度が、90分間の睡眠前後で変化するかどうかを検証する。もし、睡眠前後で運動課題のパフォーマンスに変化があった場合には、学習習熟度の変化と相関する睡眠脳波の特徴成分(e.g. 徐波や睡眠紡錘波の数・周波数・強度等・脳部位等)を網羅的に検討する。最終的には、学習定着に関連する脳波特徴量を、ロックインアンプを用いた脳波推定法によってオンラインで抽出し、その脳波特徴量に合わせた電気刺激を麻痺筋へ送ることで神経補綴装置を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は効率的な物品調達を行ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
実施計画に基づき神経補綴装置の開発に必要な物品の購入を行う。また、研究により得られた成果を学会などで発表するために使用する。
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