特別養護老人ホームで中長期的実験を進め、不穏行動等の「認知症の行動・心理症状」(BPSD)の評価尺度NPI-NHを用いて遠隔操作型アンドロイドロボット「テレノイド」による継続的な対話の効果評価を行った。被験者5名を対象に調査はベースラインとなる実験開始前、中間で5週間後、最後に10週間後の実験終了時の3回実施した。結果、ベースラインと比較し、全被験者のBPSDトータルスコアは5週間後に有意に低下した。10週間後にも低下の傾向が見られるものの、ベースラインと比較して有意差は認められなかった。NPIサブスケールの比較では、ベースラインで3名の被験者が「不安」のスコアを得ていたが全員減少し有意差が見られた。介護負担度は、NPI-NH被験者全体のスコアについて、ベースラインと比較し5週間後に有意に減少する結果が得られた。しかし、ベースラインと比較し10週間後のスコアとの間には有意差は認められなかった。こうした結果から、ロボットとの対話がBPSDの低減に寄与し、不安などの症状の改善を促す可能性が示唆され、さらに対話の継続によって介護負担度の低減をもたらす可能性も示唆された。しかし、継続的な対話を行うなかで、効果の持続性を強化する方策も必要とされる。また高齢者の対話を促し、特定の方向へと心理・行動を誘導する効果的な方法と併せて、介護現場におけるロボットメディア活用の倫理的課題についても考察した。誘導技術がもたらすリスクとともに、むしろロボットの強みを活かした意思決定の尊重とwell-beingへと導くことで意思自体を変えるように促すアプローチについて検討した。上記の誘導的技術の開発に伴う関係的自由の概念など課題についてポスト現象学的な観点から検討を加え、関連する各分野で学会発表を行うとともに新領域Robo-Philosophyの開拓を先導するオーフス大学等海外の研究者とも議論を重ねた。
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