研究実績の概要 |
本年度の研究実績は以下の7つであった。1) Harvard Beat Assessment Test(H-BAT)のiOS アプリケーションを開発し、オリジナル版のH-BATと比較して、高い結果の一貫性が見られることを明らかにした(Konno et al., RPPW, SMPC, 2019)。2) シカゴ大学と共同で、筋電気刺激による他動運動が、テンポ変化の知覚や時間長の再生成に与える影響を明らかにした(Konno et al., SfN, SMPC, 2019)。3) 慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室MTRラボと共同で、統合失調症患者を対象にH-BATを実施し、リズム知覚生成機能が認知機能やMRI脳機能構造指標に関連していることを明らかにした(Honda et al., RPPW, SMPC, 聴覚研究会, 2019; Matsushita et al., SMPC, 2019)。4)近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて、H-BAT実施中の脳活動を測定し、運動野の脳活動増大がリズム知覚に関連していることを明らかにした(松木ら, Motor Control 研究会, 2019)。5) 福島県立医科大学と共同で、精神疾患患者を対象にリズムトレーニング介入前後のH-BATスコアの変化を測定し、脳波ミスマッチ陰性電位との関連を調査した(高橋ら, 2019; 星野ら, 2019)。6) マックスプランク研究所と共同で、リズム知覚生成の国際比較研究を実施し、日本人のリズム知覚生成の特徴について明らかにした(Jacoby et al., SMPC, 2019)。7) 日本赤ちゃん学会、聴覚研究会、Lorenz Center Workshop にて、上記研究成果についてレビューした研究発表・講演を行った(Fujii, 2019; 藤井, 2019)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績で述べた(1)-(7)の成果を総合的に判断し、「当初の計画以上に進展している」と判断した。本研究の当初の目的は、ヒトの音楽リズムの知覚・生成能力の個人差について研究することであり、ヒトの脳が音楽の時間情報をどのように処理しているのかを解明することであった。具体目標として、①スマートホン・タブレット使用に対応した新型H-BATを開発すること、②リズム知覚生成の文化差を検討すること、③リズム知覚・生成能力の個人差に関わる脳機能構造を明らかにすることを掲げた。研究代表者の研究室に所属する大学院生(今野)の活躍により、具体目標①で掲げたH-BATのiOSアプリ開発を実現することができた。具体目標②についても、マックスプランク研究所との共同研究により、世界13カ国のリズム知覚生成パターンを国際比較することができた。具体目標③についても、ハーバード大学と共同研究により、H-BATの個人差が、小脳灰白質構造の個人差と関係していることを明らかにすることができ、査読付きの国際誌 NeuroImage 誌上に公表することができた(Paquette, Fujii, Li, & Schlaug, NeuroImage, 2017)。さらに、慶應義塾大学医学部、福島県立医科大学医学部、湘南慶育病院との共同研究の機会をいただくことで、ヒトのリズム知覚生成の個人差と、精神疾患症状・認知機能との関連、MRI・EEG・NIRSなど、各種脳機能構造イメージング指標との関連を見出すことができた。当初掲げた具体目標を達成するだけでなく、今後の研究につながる期待以上の成果を得ることができたため、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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