研究課題/領域番号 |
16K16497
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研究機関 | 東京女子体育大学 |
研究代表者 |
武藤 伸司 東京女子体育大学, 体育学部, 講師 (90732777)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 身体性 / 時間意識 / キネステーゼ / 本質直観 / 体験記述 / 質的研究 / 間身体性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、現象学を基礎理論に据え、スポーツ運動学を理論的応用として位置づけ、それらを総合した学問体系を構築することである。そのために、平成28年度の研究は、研究の前提となる「身体性の生成」の原理とその諸問題を提示することにあった。また、それと並行して、様々なスポーツ、武道における身体感覚ないし運動感覚のデータを収集し、研究の方法論を整備すことも課題であった。これらのことに対する当該年度の研究実績として挙げられるのは、以下のものである。 (1)身体性の生成の原理について、キネステーゼと時間意識によって成立するという現象学の理論を、身体学研究の原理論として定式化した。この内容については、スポーツ運動学に関する研究会(運動伝承研究会)の招待講演で発表した。また、本学の紀要に「間身体性」についての論文を投稿し、掲載された。 (2)本学の学生およそ30名から、7種目のスポーツと武道の運動感覚のデータ収集を行った。質的研究方法に即して、競技者に対するインタビューや、競技者本人による体験記述を実施し、音声や動画など、様々なメディアでデータを確保した。こうしたデータ収集の方法は、未だ試行錯誤の段階にあり、実施する中で形作っている最中である。 (3)現象学の基礎理論を研究する中で、その基本的な方法である「本質直観」の研究を行った。本質直観は現象学の中で重要な方法論的な位置を占めるが、それについて本研究では、時間意識、特に未来予持との関連を明らかにした。この研究は、先行研究のない独自のものである。この研究成果は、『現象学のパースペクティブ』(河本英夫、稲垣諭編、晃洋書房、2017年)第2章「本質直観と時間意識」として刊行されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の平成28年度の課題は、主に(1)身体学研究の内実の確定と、(2)収集データの整理と活用(論文作成)、研究の実践における方法の吟味であった。設定されたこれらの課題に対し、本研究の進捗状況は以下の通りである。 (1)について、身体学それ自体の定義と研究領域を確定する必要があった。これについては、すでに平成27年度末に、本学の紀要において概要が示されていた。そこで本研究では、その概要の細部を補完する理論を提示する必要があった。それは、キネステーゼや時間意識の理論をさらに詰めることはもちろん、発生的現象学の基本理解とその研究方法の原理を示すことである。この点について、平成28年度末に、本学の紀要へ「感情移入」、「脱構築」、「間身体性」を軸に作成した論文を発表した。これにより、身体学の原理論と考えられる多くの理論が提示された。この点は、当初の研究計画よりも進んでいる部分である。 (2)競技者による体験記述のデータ収集も、概ね順調に進んでいると言える。記述を中心にして、インタビューの音声、現場における動画など、様々なメディアで収集できた。今後も同様に多くの人数、種目のデータを蓄積していくつもりである。これについては、しかしながら、「収集の方法」は、単に現象を記録に残すだけでなく、目的を持ったデータ収集、あるいは、そうした目的とは意図しないような偶然的なデータ収集など、様々なタイプの現象を混ぜ込んだ方が、より現実に即した分析ができると考えている。また、収集したデータの整理や分類の方法も考えねばならない。これらの点は、次年度に引き継ぐ課題である。そして、これらのデータを用いた論文の作成という点では、年度内に遂行できなかった。この点に関しては、急ぐ必要がある。 以上の点により、研究の進捗状況は「おおむね順調」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、おおむね順調に研究が進捗しており、計画に変更はない。平成29年度は、特に下記の点を重点的に研究を進めたい。 (1)体験記述に関するデータのフォーマットを作成する。提供者から効率よく、かつ適切にデータを提示してもらうため、実践の中での試行錯誤はもちろん、質的研究方法の方法論を研究する。近年盛んに用いられるようになった主観的なデータについて、そのエビデンスの確保に関する理論的な裏付けはもちろん、その収集方法に注目する。この質的研究方法自体が様々な研究者によって分析、吟味がなされていることを考慮し、本研究においても活用することが課題であり、推進方策となる。 (2)身体学研究における原理論の仕上げを行う。前年度の進捗からして、身体学の定義と領域確定に関する理論づけは、研究期間内において目標達成が可能であると予想される。したがって、原理論に部分に関しては、間身体性の議論から「伝承」という現象に関する考察を行い、さらなる進展を目指す。推進の方策としては、この伝承というキーワードに関して、スポーツ運動学の諸研究を参照し、取り入れることによってそれを達成する。 (3)これまで収集したデータを用いて論文作成し、公表する。前年度同様、さらに体験記述のデータを様々な角度から収集し、整理する。そして、それらのデータを用いて、身体学研究の雛型となるような論文を作成する。そしてそれらを諸学会(特に体育学系)に投稿し、掲載を目指す。本研究のまとめであり、新規の研究領域として外部に発信するために、この課題に特に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた理由としては、29円とかなりの少額だったため、使用可能な事由、物品などがなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越された助成金29円に関しては、物品費に回し、消耗品の購入において使用する。
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