研究課題/領域番号 |
16K16503
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研究機関 | 華頂短期大学 |
研究代表者 |
渋谷 郁子 華頂短期大学, 幼児教育学科, 准教授 (80616938)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 手指運動 / 不器用さ / 両手協調 / 道具操作 / 訓練プログラム / 実行機能 / 幼児 |
研究実績の概要 |
子どもの不器用さは、ハサミや箸が上手に使えないとか、靴のひもが結べない、片足跳びができないといった、日常的な運動の不全に現れる。このような運動の不全は、生活の質を低下させたり、学業達成を妨害したりする恐れがある。特に手指運動に不器用さがある場合、食事や更衣などの生活動作から、書字や文房具の使用などの基礎動作に至るまで、広範囲にわたって支障をきたしてしまう可能性がある。また、不器用さは、幼少時には目立ちにくいが、就学後の学校生活の中で顕在化し始め、自尊心の低下や高い不安感といった、二次的な心理社会的問題を引き起こすことが知られている。不器用さの原因究明や効果的なサポート支援策の提案は、子どもの発達を支援する上で、重要な課題だといえる。 本研究は、手指運動に不器用さのある幼児が、両手協調の方略を学ぶための訓練プログラムを提案するためのものである。そのため、両手協調に影響を与える技能的・認知的要因をそれぞれ調査している。昨年度はこれまでに収集したデータをもとに、両手協調に影響を与える可能性のある実行機能(認知的要因)とハサミ操作のパフォーマンスとの関連について研究し、令和2年9月の日本教育心理学会第62回総会にて発表した。 また、ハサミの操作を撮影したVTRをもとに、ハサミ操作が正確で速い群、正確で遅い群、不正確で速い群、不正確で遅い群の4群に分類し、代表的な事例を取り出して、その動作の特徴を解析した。非利き手の角度、利き手に合わせて非利き手を動かすタイミングなどが、ハサミ操作のパフォーマンスに影響を与えている可能性が浮かび上がってきた。今年度はこれらの結果をもとに、訓練プログラムを考案し、手指運動の不器用さが目立つ幼児に実施して効果を測定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
両手協調に影響を与える技能的・認知的要因を明らかにするため、保育園・こども園の年長児クラスの子どもたちを対象として、(1)~(4)のデータを収集済である。(1)ハサミ操作のパフォーマンス(基本・応用課題における逸脱量、運動時間)、(2)ハサミを操作中の手指運動のVTR(前面、左面、右面の3方向より撮影)、(3)実行機能の諸課題(葛藤抑制の指標としてハンドゲーム(Hughes, 1998),視空間性ワーキングメモリの指標として積み木叩き課題(K式発達検査)とハンドテスト(K-ABC),言語性ワーキングメモリの指標として数唱(K式発達検査)と単語逆唱(Carlson, 2002))、(4)随意運動発達検査(手指の随意運動)。 このうちの一部は、日本教育心理学会総会にて発表した。また、(2)については、今回収集したデータとこれまで収集したものを合算すると362名分のVTRの蓄積がある。ハサミ操作の逸脱量、運動時間の中央値を用いて、この362名を、ハサミ操作が正確で速い群、正確で遅い群、不正確で速い群、不正確で遅い群の4群に分類し、各群より代表的な事例を取り出し、動作解析ソフトウェアを用いて、両手の調節過程の特徴を分析した。この結果は、勤務校の研究紀要に論文としてまとめる予定である。今年は、これらの結果をもとに立案した訓練プログラムをハサミ操作を苦手とする子どもに実施し、その効果を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
道具操作に関わる認知的要因として、形の理解・再現にかかわる発達が関連していることがわかっている。このような理解は、課題図形の形状に関する情報を読み取り、ハサミの開閉角度や紙の向きなどを調節する際に役立つと考えられる。道具操作に関わる技能的要因として、非利き手の調節過程(角度、タイミング等)が重要な役割を果たしていることが示されている。 これらの認知的要因と技能的要因を融合させた訓練プログラムの試案を作成した。第一に認知的要因の考察を基に、ハサミを操作する前に対象図形の形状を認識できるよう、対象図形を指でなぞったり、調節の必要な場所を絵で示した絵本を見せたりする。いずれも、対象図形の形状について、通常は暗黙的に理解していることを、明示化することが目的である。第二に技能的要因の考察を基に、対象児のハサミ操作の発達に合わせて、課題遂行中の手の置き場所について、利き手のみ、非利き手のみ、あるいは両方を固定させる。このようにして、運動器官の自由度を減じることで、自己調節がしやすくなる状態を作り出せると考えている。 COVID-19の感染拡大により、保育園やこども園での調査が難しくなっているが、感染者数が低くなる時期を見計らい、日頃から不器用さの目立つ幼児数名を対象として訓練プログラムを実施し、その効果を検証する計画を立てている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はCOVID-19感染拡大により、予定していた保育現場での調査ができず、研究が滞ってしまった。次年度は感染対策を行いながら調査を実施する予定である。
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