本研究は、手指運動に不器用さのある幼児が両手協調の方略を学ぶための訓練プログラムの開発を目的とした。両手協調を用いた手指運動の典型例として、ハサミで円図形などを切り取る動作に焦点を当て、その遂行にかかる正確さと速さを指標とした。 研究の初期段階では、両手協調への意識を高め得る効果的な教示のあり方を検討するため、年長児のハサミ操作の正確さ・速さと実行機能の各課題との関係を検討した。実行機能とは基本的な認知機能を、ある目的を達成するために統合・制御する高次の認知機能である。結果より、優勢反応を抑制する力や、手の動きを記憶して再現する力が、ハサミ操作の正確さと関連していることが示唆された。 続く中期段階では動作解析ソフトウェアを用いて、年長児のハサミ操作における両手の調節過程を数値化した。ハサミ操作が不正確である子どもはそうでない子どもと比べ、紙を把持する非利き手を自分の身体から遠ざけ、課題遂行中に両手を大きく動かしていることがわかった。このことから、ハサミ操作の正確さを高めるには、上肢の位置を身体から近い場所に固定させて手指運動を抑制し、両手協調を子どもに意識させることが有効であると考えた。 以上の結果を踏まえ、最終年度には外的補助を用いて上肢の位置を固定すること、および手の動きの事前予測によって両手協調を意識させることを目的とした訓練プログラムを組み立て、動作解析ソフトウェアを用いて、それらの効果の検証を行った。結果より、外的補助を用いた手指運動の抑制は、ハサミ操作の正確さを向上させること、ハサミ操作の速さ、特に非利き手の動きの速さを低減させることが示された。この効果は、ハサミ操作が速くて不正確な子どもにおいて顕著であった。一方、手の動きの事前予測による両手協調の意識化は、子ども自身の運動調節リズムを乱してしまう傾向があった。自発的な方略発見が重要であることが示唆された。
|