本研究では,スポーツ愛好者を組織化するための制度的環境と,その環境変動に対するスポーツ組織の課題を,国際比較から明らかにすることを目的とした.そして,研究目的①高度化を志向する日本のサッカー行為者が,ドイツ・ブラジルそれぞれの制度的環境のなかでサッカーを行うことで,彼らの社会的性格がどのように変容し,スポーツのどのような制度的環境の特徴が影響を及ぼすのかを明らかにすることと,研究目的②制度的環境の変動期であるJリーグ設立構想期や創成期における日本サッカー協会(JFA)のスポーツ組織内部の動向を明らかにすることの2つの下位目的を設定した. 本研究の最終年度である2019年度は,研究目的②を達成するため,上述した制度的環境の変動期にJFAの各種委員会委員として関与したブラジル人元サッカー選手2名へのインタビュー調査を行い,日本人とは異なる彼らの意思を制度生成に反映する過程における問題を明らかにした. インタビューから,当時のJFA各種委員会では,周囲とは異なる考えをもつ調査対象者の意思を制度生成に反映することや組織の意思決定にまで影響を及ぼすことは難しかったことが明らかとなった.そして,スポーツ組織による新たな制度生成には,多様な構成員を確保することに加えて,委員会をオープンにすることや役職員や委員等の選挙を行うこと,スポーツ組織自体の自立・自律性を確保することなどの必要性が示唆された. 前年度までに実施した研究目的①の結果も含めて考察すると,スポーツ愛好者を組織化するための制度的環境の生成には,愛好者に正統性が与えられる環境に触れて社会的性格を形成された者がスポーツ組織の構成員になるとともに,そのような構成員の意思を制度生成に反映させる仕組みが求められ,これらの点が今後の環境変動(スポーツの多元的な価値の創出が求められる社会)に対するスポーツ組織の課題となることが示唆された.
|