ヒトの移動運動における主要なモードである歩行と走行は、ともに共通の関節や筋の運動により実現する一方で、トレーニング効果を共有しないことが申請者らのこれまでの行動科学的手法を用いた検討により明らかになっていた。本研究では、これら双方のモードを行動科学的に区別する決定要因は何か同定するとともに、今後、モード間でトレーニング効果を共有を可能とする条件介入の可能性について検討した。分離型トレッドミル上の歩行や走行で起こる運動学習効果に着目し、歩行、走行時に生じる床反力の詳細な分析により検討した。結果、歩行の学習では足の接地に伴う力調節が重要な役割を担い、離地時の後方へと蹴る力調節は学習に対してほとんど影響が認められなかった。一方で、走行時では接地と離地の両方の局面における力調節がともに学習に関係していた。その上で、歩行時であっても、後方から体幹部分を水平方向にけん引する力場を加えると、通常の歩行時では観察されなかった離地時の力調節に学習に関連した特徴的変化が観察された。また、この特徴的変化は歩行の速度に対して、とりわけ、高い速度において特異的に起こる結果が示された。ゼブラフィッシュの泳ぎ動作やマウスの歩行を対象に調べた先行研究では、異なるモードの移動運動はいずれも、運動のリズム(周波数)と対応づけて説明されてきたが、本研究の結果を受けてのヒトの歩行と走行の違いは運動のリズムでは必ずしも決定されない可能性が示唆された。
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