複数の他者の状況変化を敏感に察知し,自己を調整する能力は,様々な社会場面で重要となる社会技能である.本研究では,社会技能のうちでもスポーツにおける連携技能に着目し,連携動作の制御・学習を支援する練習道具の効果を検証することを目的とした.まず,連携技能において個人が多様な環境の変化にどのように対応しているのかを検証するために,社会行動の数理モデル(social force model)を援用して個人の行動を定式化し,連携動作の再現を試みた.具体的には,プレイ領域や敵・味方との位置関係の変化に応じて誘引・反発する作用を含ませて,空間力,敵からの回避力,味方との協調力により個人の行動をシミュレーションしたところ,三者の連携した動き(リズム同期)を再現することができた.またさらに,3つの力の強度を変更した際のデータと実際のプレイヤーの動きのデータを比較したところ,味方との位置関係を調整する協調力の強度の違いが,熟練者と初心者を決定する要因であることが明らかとなった.さらに,この協調力を張力によって再現した練習道具を2つの側面から開発し,その効果を小学生の初心者を対象に検証した.その結果,練習道具には,三者の陣形の崩れを補正する効果がみられたが,リズム同期の増加について有意な効果は認められなかった.一方で,大学生を対象に2日間の学習実験を実施した結果,道具の利用がパフォーマンスの向上に寄与する可能性が考察された.スポーツ科学や身体運動科学ではこれまで,個人技能の制御・学習が中心に検討されてきたが,複数人からなる連携技能の制御・学習については,不明な点が多い.本研究では,数理モデルを用いて連携技能の制御を検討し,練習道具を独自に開発して連携技能の学習を検討した研究であり,身体的なヒトの社会技能の理解に繋がると考えられる.
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