最終年度に実施した研究の成果:運動トレーニングによる発汗機能の改善メカニズムを神経伝達物質に着目して明らかにするため,日頃運動トレーニングを行っている長距離選手と普段運動をしない非トレーニング者の発汗機能を比較した.具体的には,前腕部の局所で皮膚の交感神経末端より放出されるノルアドレナリンを阻害する薬品を局所的に処置し,漸増負荷運動を行った.運動トレーニング選手ではこの処置により発汗量が低下したが,非トレーニング者では低下しなかったことから,運動トレーニングによる発汗機能の改善メカニズムの少なくとも一部には皮膚の交感神経から放出される物質が関与することが明らかになった.
研究全体を通じて実施した研究の成果:研究期間の1年目には,運動トレーニングによる発汗機能の改善メカニズムとして,一酸化窒素合成とシクロオキシゲナーゼが安静温熱負荷時の発汗反応に貢献するのかどうかを検討した.また,漸増負荷運動時の発汗反応にβアドレナリン受容体が関与するのかどうか,する場合には,運動トレーニングでその発汗が大きくなるのかどうかを検討した.上述した2年目の結果を合わせて考えると,交感神経活動の賦活が大きくなる高強度運動時には神経末端より放出されるノルアドレナリンやそれに関係したβアドレナリン受容体が運動トレーニングによる発汗機能の改善に貢献することが明らかになった.また,体温上昇に伴う発汗について,一酸化窒素合成酵素はわずかに貢献する可能性が示唆されたが,シクロオキシゲナーゼはトレーニングによる発汗機能の改善に貢献しないようであった.これまではアセチルコリンという神経伝達物質が発汗機能の改善に主に関与すると考えられてきたが,上述のように,より複雑なメカニズムによって発汗機能は改善されるようである.まだ不明な点が数多く残されており,今後も研究を継続する必要がある.
|