研究課題/領域番号 |
16K16526
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷川 哲朗 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任助教 (90615452)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 障害者スポーツ / 水泳 / 片側前腕欠損 / 両手同時ストローク / バタフライ / 平泳ぎ |
研究実績の概要 |
片側前腕欠損の障害を持つ水泳選手は,上肢で水をかく抗力が左右で異なるため,バタフライなどの両側同時ストロークが難しい.これは,この障害を持っている選手にしか体感することができない運動感覚であるが,この主観的な感覚は体験知として蓄積されていない.そこで本年度は,片側前腕欠損の障害を持つ水泳選手がバタフライを泳ぐ際の主観的な感覚を明らかにすることを目的とした. 対象は,片側前腕欠損の障害を持つ女子水泳選手5名とした.そのうち1名は,パラリンピック日本代表選手であった.対象者は,25mバタフライ泳を最大努力泳で実施した.その様子を対象者の進行方向前方および側方から水中カメラで撮影した.その映像を確認しながら,バタフライ泳特有の難しさおよび工夫している点について,半構造化インタビュー調査を実施した.その内容についてKJ法A型を用いて,対象者の言葉をコード化し,カテゴリ別に類型化した.その類型化したカテゴリについて,バタフライ特有の難しさに関する指標,対象者に共通する指標かどうかによって空間配置を行った. その結果,バタフライを泳ぐ際に難しいと感じるカテゴリは,「ストローク」,「うねり動作」,「姿勢」,「キック」,「体幹」,「手足のタイミング」,「周辺スキル」,「進む方向」の8つに類型化できた.また空間配置の結果,対象者に共通するバタフライ特有の難しさは,うねり動作を小さくできない点,患側のストロークが早く動く点,健側が疲労しやすい点であることが明らかとなった.このことから,片腕前腕欠損の選手は患側で水を押す抗力が十分に得られないため,身体を水面上に持ち上げられず,身体を大きくうねらせることにより,顔を上げて呼吸していることが考えられる.来年度はこの点に着目して動作分析を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
片側前腕欠損の障害を持つ水泳選手におけるバタフライの動作に関する主観的な感覚について明らかにできた.これは,健常者では感じることができないポイントである.現在は健常者のコーチが指導していることが大半であるため,指導のポイントの足がかりになる可能性があり,有用性であると考えられる. しかし,同じ両手同時ストロークを行う平泳ぎに関する知見は,未だ分析段階である.平泳ぎはバタフライと異なり,ストロークよりもキックで推進力を得る泳法であるため,同じ両手同時ストロークでも特徴が異なると考えられる.これが明らかにできれば,種目に応じた指導のポイントを明確にできる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
得られた主観的データの知見より,実際の動作がどのように行われているかを数値で評価するため,平泳ぎおよびバタフライの動作分析を行う.動作分析と主観的な感覚の違いを明らかにし,指導時に留意すべきポイント等をまとめ,最終年度に指導ができるよう,データを収集することを目指す.
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