本研究では,片側前腕欠損者による左右同時ストロークのスキル向上のための指導法を提案することを最大の目的とし,その目的を達成するため3 つの課題を設定した.平成28年度は,片側前腕欠損者特有の主観的な感覚を調査した.平成29年度は,左右同時ストロークのメカニズムを解明するため,バタフライの動作分析を行った.これまでの研究成果から,最大努力でバタフライを泳ぐよりもレース後半のように最大努力下で泳ぐ時の方が両手同時にストロークをすることが難しいことが確認できた.そこで平成30年度は,バタフライの最大努力下での上肢動作に着目し,「健側のストロークを小さくさせる指導」を行うことによって,患側のストロークがどのように変容するか検証することを目的とした.対象は,バタフライを専門としない片側前腕欠損の障害を持つ女子水泳選手1名とした.指導者は,障がい者水泳の指導歴10年の経験を有するコーチ1名であった.練習は25mを8回,十分に休憩を行いながら実施した.練習内容は,健側のみでストローク2回とバタフライ2回の4本を2セット実施した.技術指導は,「健側は,肩よりも後方にストロークをしないように,ストロークをしたらすぐにリカバリーをしてください」と指導した.運動試技は,15mバタフライに設定し,可能な限り遅く泳ぐ試技を練習の前後に行った.その結果,1ストロークに要する所要時間に差は見られなかった(2.31秒)が,練習後における患側のストローク開始時刻が少し遅くなった(練習前:1.89秒,練習後1.96秒).さらに,ストロークの最下点から手部の出水までは健側の手と患側の先端が同時に動く傾向であった.このことから,健側のストロークが変わるように指導者が指示したものの,実際には患側のストローク開始のタイミングを遅くすることで,左右同時にストロークを行った傾向が明らかとなった.
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