本研究の目的は,ヒトの身体運動における熟達化に潜む共通した仕組み,すなわち熟達化に潜むダイナミクスを明らかにすることであった.現在までの身体運動の熟達化に関する研究は,ある単一の運動課題における学習者群の熟達過程を平均して検討されることが多く,各々の学習者の個人差は殆ど扱われてこなかった.これに対して本研究では,学習が早く進行する学習者となかなか学習が進まない学習者との学習過程の相違及び,同一の学習者が複数の運動課題を学習する過程を課題縦断的に観察及び検討することによって熟達化に潜むダイナミクスを解明することを目指している. 平成28年度から令和元年度にかけて,キャスターボードの学習過程を3次元動作解析装置によって縦断的に観察し,その過程に生じる身体運動の変容の定量化及び,分析を行った.その分析の結果,運動学習がより早く進行する学習者とそうでない学習者との相違として,より進行する学習者は,課題制約に応じた新たな運動パターンを獲得するために様々な運動パターンを探索していることが明らかになった.他方,そうではない学習者は,運動学習の過程において類似した運動パターンに固執し,新たな運動パターンを探索する振る舞いが少ない傾向が見られた.これらの結果は,令和元年度に行われた国際学会において発表された. 令和2年度では,国際学会での指摘に基づいて新たな分析を加え,国際誌に投稿するための執筆を行なった.現時点ではまだ投稿までは至っていないが,投稿予定の国際誌については目処がたっており,投稿の準備を進めているところである.
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