重度視覚障がい短距離選手(以下,選手)がより速く走るためには,伴走者と併走し二人三脚のようにして,手足の動作やリズムをすばやく同調させる必要がある.しかしながら,選手と伴走者がなす,より速く走るために手足の動作やリズムをすばやく同調させようとする併走動作の特徴をとらえた研究報告は皆無に近い.本研究では,研究1):伴走者や伴走ロープ使用の有無が選手の疾走動作に及ぼす影響と研究2):伴走者の併走位置やリズムの違いが選手と伴走者の併走動作に及ぼす影響,から成る研究計画を立て,選手が手足の動作やリズムをすばやく同調させるための条件や要因を明らかにし,より速く走るための実践現場で役立つ基礎的資料を得ることが目的であった. 研究1)では,伴走者が選手と伴走ロープを保持し併走することが,選手の安定した走行を確保する(蛇行や加減速を防ぐ)ために重要であることが示唆され,選手と伴走者双方の内省報告からも,お互いの手足の動作を同調させることによって競技力を高めることができる可能性が考えられた. 研究2)では,選手と伴走者の位置関係は一般的に真横が望ましいとされているが,競技会では伴走者が「やや前に」位置し,伴走ロープを握っている手(腕)を振るリズムを選手に「合わせる」もしくは「やや速く」としていることが確認された.選手の「やや後ろ」に位置し,腕振りのリズムを「やや遅く」することは,選手の疾走動作のうち,股関節群の可動域が狭くなりストライド長が制限され,より速く走るために望ましくないことも確認された. これらのことから,選手と伴走者が併走し短距離走をより速く走る為には,伴走ロープを使用した疾走動作を十分に考える必要がある.その際,伴走者は併走位置を「やや前」とし,伴走ロープを握っている手(腕)を振るリズムを「合わせ」たり「やや速く」するなどの調整をすることが効果的であると考えられる.
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