モノを正確に投げるためには,リリースのタイミングを高精度で制御する必要がある.本研究の目的は,野球の投球およびバスケットボールのシュートを対象に,熟練選手が,リリース変数(リリース位置、投射速度、投射角度)の冗長性を利用して、リリースタイミングの時間窓を長くするような運動を習得しているかどうかを明らかにすることであった。 28年度に実施した大学野球投手を対象にした実験データからは、コントロールの優劣とリリースの時間窓の長さには関連性が見いだせていなかった。29年度には、対象を元プロ野球選手に拡大して実験を実施した。その結果、元プロ野球選手の場合、コントロール(ボール到達位置)が同程度の大学生投手と比べて、リリース位置のばらつきが大きいことが明らかになった。このことは、プロ野球選手の場合、同じコントロールを発揮するためのリリースタイミングに幅がある(リリースタイミングの時間窓が長い)可能性を示唆している。 さらに29年度は、バスケットボールのフリースローを対象にした実験も実施した。その結果、経験者は未経験者と比較して、ボール到達位置のばらつきが小さいにもかかわらず、ボール到達位置に影響を与えるリリース時のボール投射速度のばらつきは同程度に大きいことが明らかとなった。このことは、バスケットボールのフリースローにおいても、経験者はさまざまな軌道でシュートしていることを意味しており、リリースタイミングにも幅がある可能性を示唆していた。 以上のように、野球の投球やバスケットボールのフリースローのような全身運動として実施される実際のスポーツ動作においても、リリース変数の冗長性を利用した運動戦略をとっていることを明らかにした。
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