野球打者は対戦投手の様々な球種やコースの投球を見極め、高速度のバットスイングで正確にボールを捉えなければ高い打撃成功率を維持することはできない。しかし未だ、打者の優劣を決定する詳細な能力についてはほとんど明らかになっておらず、効率良く打撃パフォーマンスを向上させる練習方法は明らかではない。そこで本研究では、実験室内において実戦同様の投球を体験できる仮想システムを使用し、バットスイング中の野球打者の脳波及び視線、動作を計測し、実戦的な投球条件下での打撃成功に関わる打者の視認・認知戦略とバットスイング動作を解明することで野球や他の打球スポーツにおける技能向上に役立つ知見の提供を目指す。本研究では様々な球種や球速の投球が投じられる課題中における視線とボール位置のズレ(距離)、バットスイング速度、打球位置、打撃動作の違いを検討した。また、被験者は大学野球において優れた打撃成績を有している選手と非レギュラー選手とし、被験者内比較と被験者群間比較を行った。その結果、異なる軌道や球速の投球に対しても、打者の視認動作パターンに違いが認められないこと、そして視線とボール位置とのズレの大きさは打撃の正確さとは強く関係していないことが明らかになった。これらの知見は、研究代表者らが執筆した査読付き論文および学会発表を通じて公開されており、今後、野球を始めとする打つスポーツにおけるパフォーマンス向上に寄与することが期待できる。
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