本研究は、少年期の野球選手の投球動作と野球肘検診所見の関連を明らかにし、この年代の怪我を予防、防止することで、野球界の更なる発展に貢献することを目的とした。 初年度である平成28年度は、つくば市近隣の野球少年少女を有志で募り、投球腕および非投球腕の肘関節のMRI診断結果を比較することで、異常所見が見られた選手とそうでない選手とに分類した。また、全被験者の投球動作を2台の高速度カメラで撮影し、撮影した画像を手動デジタイズし、DLT法を用いて三次元座標値を算出した。これらの座標値からキネマティクス的およびキネティクス的変量を算出し、MRI診断結果と比較した。 64名の小学生野球少年少女のMRI診断結果と投球動作との関係性について分析したところ、踏み出し足着地時の投球腕肩関節の外転角度が90度以上の選手はMRI診断結果において陽性者が有意に多かった。すわなち、指導現場で使われる「肘を肩のラインまで上げる」という動作ができている選手が陽性と診断されたことから、従来の指導は一概に正しい指導とは言えないことが示唆された。一方で、陰性と診断された被験者の多くは、踏み出し足着地時の投球腕肩関節の外転角度は80度程度であり、踏み出し足着地後に外転角度が大きくなり、ボールリリースにかけて集約していくことがわかった。 また、身長と投球速度には相関関係がみられたが、高身長にも関わらず投球速度が小さい選手の90%がMRI診断結果において陽性者であった。以上のことから、野球肘の予防において身長に応じた投球速度を獲得させることが重要であることが示唆され、一定の範囲内の投球速度を獲得させるための投球動作に関する知見および指導方法について明らかにする必要があるといえる。
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