研究課題/領域番号 |
16K16559
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡本 正洋 筑波大学, 体育系, 助教 (30726617)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 低強度運動 / 海馬 / ストレス / 記憶 / RNA-Seq |
研究実績の概要 |
低強度運動は海馬の神経可塑性や機能(記憶・学習)を高めるが、海馬は情動を担う脳部位でもあることから、低強度運動がうつ症状や不安行動などの改善に有用であることが想定される。そこで、本研究ではRNAシークエンシング(RNA-Seq)を活用し、低強度運動による抗うつ・抗不安効果およびその分子基盤を明らかにすることを目的に実験を行った。 実験では、6週間の低強度運動がストレス耐性を高めるか、一過性の拘束ストレスを用いて検証した。その結果、低強度運動トレーニングは一過性のストレスによる記憶力の低下を防ぐことが明らかになった。現在、海馬の背側部と腹側部をそれぞれ採取し、RNA-Seqによる網羅的な遺伝子解析を行っている。 さらにBDNF(脳由来神経栄養因子)のSingle-nucleotide polymorphism (Val66Met)マウスを用い、ストレス脆弱性が高く、うつ様症状や不安行動を示すマウスに対する運動効果について検証した。抗うつ薬抵抗性を示すこのマウスでは、6週間の運動療法と抗うつ薬(フルオキセチン)の併用により、うつ様症状が改善し、プレシナプスに存在するmGlu2Rの発現量も回復することが明らかになった。RNA-Seq解析によるPrincipal Component Analysisでは、Val66Metマウスと対照群(Val/Val)のマウスの腹側海馬歯状回のTranscriptomeは大きく異なり、運動療法と抗うつ薬の併用により、Val/Valマウスに近いTranscriptomeを示すことを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6週間の低強度運動は一過性のストレスによる不安行動や認知機能の低下を防ぎ、さらにその分子機構としてグルタミン酸受容体やトランスポーターの関与を示唆した。また、次年度予定していた遺伝子改変マウス(BDNFの遺伝子多型, Val66Met)の実験の一部を前倒しで実施し、RNA-Sequencingの解析まで進めることができ、概ね順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
RNA-Sequencingの解析は多岐にわたる。引続き、解析を続け、ストレス耐性を高める運動効果の分子基盤について、多角的に明らかにする。同時に、一過性だけでなく、慢性的なストレスに対しても、運動が有用か検証し、その分子メカニズムを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験費用の一部を研究協力者と分担することができ、予定していた経費よりも少ない額で実験を遂行することができたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
実験規模を拡大し、より詳細は分子基盤の解析、特にRNA-sequencing の解析を集中的に行うための費用として支出する予定である。
|