温熱負荷は骨格筋の肥大をもたらす物理的な方法の一つであり、加齢による筋量・筋力低下(サルコペニア)の有効な対抗策となることが期待される。本研究でも、老齢動物に対して温熱負荷と栄養を組み合わせることによって、筋の肥大が生じることが明らかとなった。最終年度の研究では、温熱負荷がどのようなメカニズムで筋肥大をもたらすのかを、分子生物学的手法を用いて実験を行うことを計画した。研究計画当初では、C2C12培養細胞を用いてより詳細に検討することを考えていたが、昨年度実施した研究において、C2C12培養細胞ではマウス骨格筋と同様の応答が生じないことが明らかとなった。そのため、本年度はマウスに対して、筋タンパク質合成の調節に関与する細胞内シグナル伝達物質であるmTORの阻害剤を用いて、温熱負荷がタンパク質合成に及ぼす影響を検討した。具体的には、温熱負荷を行う前に、mTOR の阻害剤であるラパマイシンを投与し、温熱負荷1時間後、6時間後、24時間後にヒラメ筋を摘出し、ウェスタンブロット法にて細胞内シグナル伝達の活性化を検討した。その結果、温熱負荷1時間後において、温熱負荷により骨格筋細胞内においてmTORシグナル伝達経路の活性化が生じるが、阻害剤を用いるとその活性化が抑制されることが明らかとなった。mTORは、栄養や筋収縮などの刺激が細胞内に伝達された時の収束点として機能し、タンパク質合成を調節している。したがって、本研究を通して、温熱負荷による筋タンパク質合成や筋肥大効果の一端はmTORシグナル伝達経路を介している可能性が示唆された。
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