本研究課題では鼠径周辺部痛症候群を取り扱うこととしてきたが、ここ数年での概念や定義の変化から、鼠径周辺部痛と記載する。本研究では股関節周囲機能の着目し、股関節周囲筋に着目して研究を行なった。 本年は鼠径周辺部痛の発生頻度が高いサッカーにおいて鼠径周辺部痛の発生者と股関節筋力の解析を行なった。股関節筋力は背臥位にて股関節中間位での最大等尺性収縮とした。その結果、鼠径周辺部痛が発生したものは股関節内転筋力および股関節外転筋力が鼠径周辺部痛を発生しなかったものより有意に筋力が低かった。そのため、鼠径周辺部痛に対してはリハビリテーションとして股関節内転筋、外転筋に対するアプローチだけでなく、予防としてのトレーニングプログラムに取り入れるべきであると考えられた。 また、鼠径周辺部痛ではリハビリテーションや予防として対側上下肢の対角線状の動きと骨盤の回旋を重視するクロスモーションが効果的とされており、サッカーのキック動作を模倣した動作でのクロスモーションの有無による骨盤の可動性への影響について検討した。本研究ではマーカーレスでの三次元動作解析装置を用いて実施した。その結果、クロスモーションの実施により骨盤の矢状面の動きが大きくなり、股関節伸展に伴う骨盤の前傾が大きくなった。また、水平面上の動きにおいても股関節伸展に伴う骨盤の同側回旋および、股関節屈曲に伴う反対側への回旋が大きくなった。 本研究では鼠径周辺部痛の発症頻度が高いサッカー選手において股関節内転筋の筋硬度が変化すること、股関節周辺部痛が発生したものは股関節筋力が低下すること、上下肢といった全身の連動性が骨盤の動きに影響し、股関節への負荷を軽減する可能性が示唆された。
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