| 研究課題/領域番号 |
16K16568
|
|---|
| 研究機関 | 新潟医療福祉大学 |
|---|
研究代表者 |
佐藤 晶子 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 講師 (70593888)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
| キーワード | チアミン / ビタミンB１ / 欠乏 / 運動 |
|---|
| 研究実績の概要 |
本研究では競技選手のチアミンの摂取基準を検討するうえで有効な基礎的知見を得るために、運動の強度や継続時間が組織レベルのチアミン代謝に与える影響を明らかにすることを目的としている。チアミンは糖質代謝に関わる酵素（ピルビン酸脱水素酵素複合体、PDH）の補酵素として働くため、運動により糖質利用が進めばチアミンの利用も進み、欠乏に向かうと推測される。チアミンの欠乏症としては脚気やウェルニッケ脳症が有名だが、そうした重篤な症状が生じる前に競技パフォーマンスに影響するような組織レベルの変化を確認できれば、競技選手の摂取基準を検討するうえで有効な情報となりうる。そこで、チアミン制限が骨格筋のチアミンおよび糖質代謝に及ぼす影響を、安静時と運動時で検討することとした。
Wistar系雄性ラットを使用して、すべての実験を実施した。まず安静時のチアミン欠乏の実験モデルを決定するためチアミンを完全にのぞいた飼料（無チアミン食）を自由摂取させたところ、二週間経過したころから顕著な体重低下が観察された。そこで、こうした臨床的な症状が生じる前の一週間の時点における組織レベルの変化を①安静時②試験管内で組織を低酸素環境にさらす模擬的運動③高強度運動④持久性運動の４つのパターンで、骨格筋である滑車上筋を使用して確認することとした。その結果、無チアミン群はコントロール群に比して糖取り込みおよびグリコーゲン含有量は①安静時②模擬的運動時③高強度運動においては有意な差が見られなかったが、④持久性運動においてグリコーゲン含有量のみ有意に多かった。このことは、チアミン欠乏によって持久性運動時にはグリコーゲンの利用が進まないことを示している。安静時においては同じく滑車上筋の中性脂肪も測定しており、無チアミン群のほうがコントロール群より含有量が有意に多く、脂質からのエネルギー産生にも影響している可能性を示唆している。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では運動の強度や継続時間が組織レベルのチアミン代謝に与える影響を明らかにすることを目的としているが、初年度に運動時のチアミンの代謝変化と比較する目的で安静時に完全にチアミンを除去した場合の組織レベルの代謝変化を確認し、チアミン欠乏の実験モデルを検討することとした。その結果、急激な体重減少といった明らかな異常が予想より早く生じたため、無チアミン食の摂取期間を慎重に決定すべきと判断し、運動実験の開始を見送った。明らかな臨床症状が全く見られない期間として無チアミン食の摂取期間を一週間と決定したが、生体での運動実験を行う前に、試験管内で過酷な運動を模した低酸素環境にさらす実験を追加して糖質代謝への影響を確認した。二年目が終了するまでに生体での高強度および持久性運動の実験を実施してサンプルを採取したが、分析が一部終了しておらず、研究計画は全体的にやや遅延している状態である。
|
| 今後の研究の推進方策 |
現時点では、無チアミン食を一週間自由摂取させたときの①安静時②模擬的運動時③高強度運動時④持久性運動時のサンプルをすべて採取し終えており、糖質代謝関連の分析をほぼ終了した。その結果、チアミンが欠乏した場合、体重減少のような異常が生じる前に持久性運動においてグリコーゲン利用が阻害されている可能性が示されたが、このことは酸素を利用してエネルギーを産生するTCAサイクルにおける糖質代謝が滞っていることを示唆するものである。また、安静時において骨格筋中に中性脂肪が蓄積したのは、糖質代謝の停滞によってTCAサイクルの機能が低下していたためとも考えられる。つまり、チアミンは糖質が解糖系からTCAサイクルに移行する際にはたらくピルビン酸脱水素酵素複合体（PDH）の補酵素であるため、この酵素の機能低下が持久性運性動時の糖質代謝だけでなくTCAサイクル全体に影響を及ぼしている可能性があるということである。本研究は競技者のチアミン摂取量を検討するための基礎的知見を得ることを最終的な目的としているが、これらの結果は、持久性運動を行う上では、チアミン欠乏症の症状が生じていなくても、チアミンを継続的に摂取することが大きな意味を持つことを示唆するものである。
今後は無チアミン食を一週間摂取したときのPDHの酵素活性を測定し、さらに組織、血液、尿中のチアミン濃度の測定を行ってこの時点のチアミン代謝の全体像を確認して、本研究の総括を行う。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
無チアミン食の摂取により予想よりも早期に体重減少のような異常な症状が出現したため、チアミン欠乏の実験モデルの決定を慎重に行ったこと、また試験管内の模擬的運動実験を追加したことで、研究計画が後ろにずれこみ、学会発表も控えたことで旅費が生じなかった。また最も多くの支出が見込まれたチアミン濃度の分析を現時点で開始していないことも、次年度使用額が生じた理由である。
次年度は組織、血液、尿中のチアミン濃度分析を進め、本研究の総括を行う。成果発表のための学会参加を予定しており、国内旅費が発生するほか、海外学術雑誌への論文投稿を予定しており、英文校閲にも費用が生じるものと予想している。
|
