研究実績の概要 |
チアミンは糖質代謝の律速酵素であるピルビン酸脱水素酵素複合体の補酵素として働くため、運動により糖質利用が進めばチアミン利用も進み、欠乏に向かうと推測される。長期の欠乏は深刻な欠乏症を引き起こすが、そうした重篤な症状が生じる前に運動能力に影響するような組織レベルの変化を確認できれば、競技選手の摂取基準を検討するうえで有効な情報となりうる。そこで、1年目はまず安静時における短期欠乏モデルを確立し、2年目は安静時、運動時の糖取り込みおよびグリコーゲンの測定を行った。この結果を受け、最終年度には運動時の糖質および脂質代謝への影響を包括的に検討した。 ラットをコントロール食群と無チアミン食群に群分けし、各飼料を1週間自由摂取させたところ、骨格筋チアミンピロリン酸(チアミンの活性型)が無チアミン食群においてコントロール食群よりも有意に低値を示した(6.41±0.47μg/g vs 12.0±0.63 μg/g, p<0.01)。この条件において①安静時、②高強度運動時、③持久的運動時の糖質および脂質代謝を確認したところ、糖質代謝関連物質には①~③いずれにおいても有意な群間差は見られなかった(昨年度、骨格筋グリコーゲン量の群間差が示唆されたが、追加実験により有意差がないことが確認された)。一方、脂質代謝も運動時には群間差が見られなかったが、安静時のみ無チアミン食群において骨格筋中性脂肪が有意に高値を(20.8±10.7 μmol/g vs 10.0±2.5 μmol/g, p<0.05)、血漿遊離脂肪酸が有意に低値を示した(0.33±0.02 mEq/L vs 0.41±0.02 mEq/L, p<0.05)。したがって、短期的な無チアミン食の摂取は糖質代謝に影響を及ぼさず、運動能力の影響は小さいものと考えられた。安静時の脂質代謝の停滞と見られる現象については、引き続き検討する必要がある。
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