疲労は自発的な活動の開始、維持が困難な状態と定義され、その状態においては認知機能の低下や交感神経活動の亢進が認められる。本研究では他者から視線を受けたり、他者と一緒に過ごしたりすることが疲労や疲労感に及ぼす影響の解明を目的として、これまでに、交際中の男女を対象として親密な他者と過ごすことの抗疲労効果を検証する試験を行ってきた。60分の認知課題(2バック課題)の実施により疲労負荷を課した後、交際相手と共同作業を行うことが単独作業を行ったときと比べ、主観的な疲労感がより大きく低下すること、また疲労評価課題として実施したトレイルメイキングテスト(ATMT)成績の共同作業前後の差が、相手に対する熱愛度の高さと相関することが認められ、親密な他者と過ごすことが疲労回復を促進する可能性が示唆された。 そこで、親密な他者(交際相手)と過ごすことが、後の疲労、疲労感の増大を抑制するかについての検証試験を新たに実施した。交際中の男女を対象に二者で行う共同で、または単独でのカード選択ゲームを実施した後、60分の認知課題(2バック課題)を精神的疲労負荷課題として実施した。カード選択ゲームの前、カード選択ゲームと精神的疲労負荷課題の間、精神的疲労負荷課題の後の3ポイントでVAS質問票とATMTによる疲労および疲労感の評価を行った。主観評価の結果、共同および単独いずれの場合でも疲労負荷課題後に有意な疲労感の増大を認め、その増大の程度は共同と単独条件で有意差は認められなかった。またATMTの成績にもカード選択課題の条件間で有意差を認めなかった。これらの結果から事前検査から疲労負荷後検査にかけて疲労が増大し、疲労感や交感神経活動の増大が生じたことが示唆される。先行研究の結果と合わせ、恋人と過ごすことの効果は疲労増大の予防(抗疲労)よりも疲労回復の場面において有効である可能性が示唆された。
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