精神疾患や神経変性疾患の発症リスクの一つとして、肥満や糖尿病などの代謝性疾患が明らかにされているように、食習慣は脳機能に大きく影響をする。アルツハイマー病発症において脳内での脂肪滴蓄積の関与が示唆されてきているが、依然として不明な点は多い。本研究では、中枢神経系のエネルギー代謝の中心を担うアストロサイトにおいて、脂肪酸による脂肪滴形成の機構を明らかにするとともに、食事誘導性肥満による脳機能への影響を検討した。 昨年度までに、初代培養アストロサイトにおいて脂肪酸の中でもオレイン酸が脂肪滴蓄積を強く誘導することを明らかにしているが、その脂肪滴蓄積が脂質毒性を緩和していることを見出した。また、質量分析計を用いて神経細胞やアストロサイト、オリゴデンドロサイトの脂質分子を解析したところ、オレイン酸を含んだ脂質分子種(特にホスファチジルコリン)が豊富に存在していた。 食事誘導性肥満モデルとして、油脂の異なる高脂肪食(ラードおよびオリーブオイル)/高ショ糖食を摂取させたラットでは、どちらの群も肥満が引き起こされるにも関わらず、ラード群においてのみ不安様行動が観察された。質量分析計を用いて血中の脂質を分析したところ、不安に関連する脂質分子としてリゾホスファチジルコリン群が見出された。 以上のことから、本年度は①アストロサイトにおける脂肪滴合成が脂質毒性緩和に寄与すること、②飽和脂肪酸摂取による不安行動の惹起にリゾホスファチジルコリンが関与すること、が明らかとなった。
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