加齢とともに増加する認知症患者は、我が国では400万人にものぼり、2025年には約700万人にまで達すると推測されている。したがって、加齢に伴う認知機能の低下を抑制し、認知症発症を予防することは非常に重要な課題であると考えられる。これまでに運動は認知機能を向上させることや認知症予防に有効であることが報告されている。しかし、認知機能が改善する機序は十分に明らかにされていない。本研究では、運動による認知機能改善の機序を、認知症発症と関連する動脈伸展性や脳血流動態などの循環機能から検討することを目的とした。 平成28年度は、中高齢者33名を対象に、運動トレーニングを実施する運動群(15名)と普段と変わらない生活を送る対照群(18名)に群分けし、8週間の介入の前後で認知機能と動脈伸展性を検討した。運動群は、自転車運動や歩行運動を中心にした中等強度の有酸素性運動を週に4-6回の頻度で8週間行った。それぞれの8週間の介入期間の前後において、超音波およびトノメトリセンサーを用いた頸動脈コンプライアンスより動脈伸展性を評価し、ストループテストの誤答率と反応時間より実行機能を評価した。8週間の運動トレーニング実施後、運動群の頸動脈コンプライアンスは有意に増大し、ストループテストの誤答率と反応時間の有意な改善が認められた。このことから、有酸素性運動トレーニングは頸動脈の血管機能を改善させ、認知機能を向上させる可能性が示された。
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