研究課題
サルコペニアは加齢に伴う退行性の骨格筋量及び質の低下である。サルコペニアでは筋萎縮に加え、骨格筋幹細胞である筋衛星細胞数の減少が見られるが、そのメカニズムは明らかではない。申請者は、転写因子Klf5が筋衛星細胞の増殖・分化に深く関与し、筋衛星細胞におけるKlf5の発現制御異常がサルコペニアにおける筋衛星細胞数の減少の原因となっているのではないかと仮説を立てた。本研究では、加齢に伴うKlf5 の制御異常が生体内で筋衛星細胞数の減少を引き起こす分子機構を解明することを試みた。これまでに申請者は、Klf5が筋衛星細胞の活性化後に一過性に発現する一方で、その発現を強制的に持続させると増殖の低下と細胞老化を引き起こすことを見出した。フローサイトメトリーにより解析した結果、Klf5過剰発現細胞は主にG2/M期で細胞周期を停止していることが明らかとなった。次にRNA-sequence法によってKlf5の過剰発現により発現変動した遺伝子の網羅的な解析をした結果、筋関連因子および細胞周期関連因子の発現がKlf5の過剰発現によって減少する一方で、細胞外マトリックス関連因子の発現が上昇した。免疫染色法による解析から、Klf5過剰発現はMyoDやミオシン重鎖などの発現が消失し、Collagen IやSmooth Muscle Actinの発現が上昇していることが明らかとなり、筋衛星細胞が筋細胞の特性を失い、線維芽細胞様の特性を獲得していることが示唆された。さらに、Klf5は増殖期の筋芽細胞ではユビキチンリガーゼであるWWP1と会合し、ユビキチンプロテアソーム経路によって分解されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
申請時の計画通り、Klf5過剰発現細胞のフローサイトメトリー解析による細胞周期解析とRNA-sequence解析を行い、Klf5の過剰発現による増殖停止および細胞老化のメカニズムの一端を明らかにすることができた。老齢マウスの作出も順調に進展しており、本年度実施予定の研究も問題なく遂行できると考えられる。
これまで結果から、増殖期の筋細胞でKlf5が発現すると細胞周期が停止し、骨格筋細胞としての特性を失うこと、また、増殖中の筋芽細胞ではKlf5はユビキチンプロテアソームによって分解され、その機能が抑制されていることが明らかとなった。今後はKlf5によって細胞周期の停止・細胞老化が起こるメカニズムについて解析する。Klf5過剰発現細胞において、細胞周期抑制因子であるp21の発現が上昇していることから、Klf5がp21をターゲットとして発現を上昇させ細胞周期停止・細胞老化を引き起こしている可能性がある。そこで、Klf5抗体を用いたChIP-seq解析によってKlf5がp21の発現を制御しているかを検証する。また、加齢に伴うKlf5の発現の上昇、あるいはKlf5蛋白質の分解の減少が実際に生体内で起こっているのかをコントロールマウスおよび骨格筋細胞特異的Klf5ノックアウトマウスを用いて解析する。
28年度の国際学会への参加・発表が招待講演となり、科研費からの旅費の支出がなくなったため。
29年度参加予定の国際学会への出張費として使用する。また、29年度に計画している実験に必要なマウスの飼育・管理費として使用する。また、本研究成果の国際誌への掲載費として使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Cell Reports
巻: 18 ページ: 1996-2006
10.1016/j.celrep.2017.01.078.
eLife
巻: e17462 ページ: -
DOI: 10.7554/eLife.17462