研究実績の概要 |
格筋中の幹細胞である筋衛星細胞は、加齢に伴い増殖能や分化能などの機能が低下し、細胞老化あるいは線維芽細胞様細胞への形質転換を起こすことが知られている(Brack et al., 2007, Science; Sousa-Victor et al., 2014, Nature)。これまで我々は、筋再生などのストレスによって誘導されるKruppel-like factor5(Klf5)が生後の筋衛星細胞の分化に必須の転写因子であることを明らかにした(Hayashi et al., 2016, eLife)。一方、Klf5を恒常的に過剰発現させた筋細胞株C2C12は細胞増殖を停止し、老化細胞の特徴であるSA-βGal陽性を示した。KLF5は加齢に伴いヒト骨格筋中での発現量が増加することが報告されていることから(Phillips et al., 2013 PLoS Genet)、我々は加齢によって本来厳密に制御されるべきKlf5の制御機構が破綻した結果、Klf5が筋衛星細胞で恒常的に発現し、細胞老化を誘導するのではないかと想定した。RNA-seqによる解析の結果、Klf5の過剰発現によって筋関連因子や細胞周期関連因子の発現が減弱した。また、Klf5を過剰発現した筋細胞は、p21の発現が上昇する一方で、MyoDやミオシン重鎖などの発現が消失し、ストレスファイバーを伴うα-smooth muscle actinを高発現した。これらの結果から、骨格筋細胞において、Klf5は細胞増殖に対して抑制的に働き、筋衛星細胞や筋芽細胞におけるKlf5発現の加齢による制御異常はp21の発現上昇を介した細胞老化や線維芽細胞様細胞への形質転換を誘導することが示唆された。本研究の成果は、サルコペニアや筋ジストロフィーなどの筋疾患の治療法開発に結びつく基盤的知識の構築に貢献すると期待される。
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