ある種のガンを罹患した患者の体内では悪臭成分のヘキサナールが多く生成することが知られている.研究代表者はこれまでに,メラノーマ由来細胞株のB16細胞がヘキサナールを感知し細胞内Ca2+濃度上昇など情報伝達を起こす機構を有しており,ガンの進行に関わる遺伝子発現の変動させることを明らかにしている.本研究では最終的にヘキサナール発生・受容機構の解明を通じ臭気の抑制及びガンの進行抑制に資すること目的として研究を行っている. 本年度は培養細胞系における遺伝子ノックアウトによるヘキサナール受容関連因子の探索及び,ガン転移マウスにおけるヘキサナールの影響について検討を行った.B16細胞でヘキサナール投与より生じるカルシウム応答について,これまで他に検討した10種以上の異なる臓器・組織に由来する培養細胞株では同様の応答が確認されなかったため,この受容機構はメラノーマ特異的に発現する遺伝子によることが示唆された.そのためメラノーマ/色素細胞で高発現し,これらで特徴的に発現する分子のマスターレギュレーターとして知られる転写因子MITFの関与について,ゲノム編集によるKO株の作製を行いカルシウム応答が生じるか検討した.MITFを欠損したB16細胞においてヘキサナール誘導性のカルシウム応答は消失せず,またその下流で生じるタンパク質のリン酸化はWT株にヘキサナールを投与した際と比較し,それ以上に亢進することが認められた.以上から,ヘキサナール受容機構はMITFに非依存であるか,または間接的に発現を抑制制御していることが考えられた. また動物を用いた実験系として,B16によるガン転移モデルマウスに対しヘキサナールの尾静脈投与を行いこの影響を評価したところ,ヘキサナール投与区で腫瘍サイズが増加する傾向が認められ,B16細胞におけるヘキサナール受容はガンの成長・進行を促進する方向に作用することが示唆された.
|