近年,加齢に伴う骨格筋の衰え(サルコペニア)に対する意識が高まってきているが、その発症機序について性差に着眼した検討はほとんどされていない。最近の研究により、骨格筋でのエストロゲン受容体が確認されているが、その生理的意義は不明である。本研究計画では、老化促進マウスおよび遺伝子改変マウスを用いて、骨格筋エストロゲン受容体の機能を明らかにすることで、エストロゲン欠乏とサルコペニア発症における性差の分子メカニズムを解明することを目的とした。①卵巣摘出した若齢雌マウスを用いてこれまで明らかにしてきた、筋萎縮と筋力低下、筋線維タイプの速筋化、サテライト細胞の機能低下について、比較的短期間で老化の影響がみられる老化促進マウス(SAMP8マウス)を用いて検証した。②エストロゲン補充療法に代わる介入法として、エストロゲン作用を持つイソフラボンを含む豆乳に着目し、閉経によるエストロゲン欠乏に伴う筋萎縮や筋力低下に対し,飼料の一部を豆乳に置き換え、予防改善効果があるか否かを検証した。③骨格筋特異的にERβ遺伝子を不活性化できるマウスを用い、骨格筋の発生、再生におけるERβ機能阻害の影響を検討した。SAMP8では、通常飼料をあたえると筋力が有意に低下したが、豆乳食では筋力がコントロールマウスと同程度まで改善した。同様に筋横断面積に関してもSAMP8で通常飼料では萎縮したが、豆乳食ではコントロールマウスと同程度まで改善した。筋損傷を惹起させた後の再生能に関してもSAMP8で通常飼料では横断面積は縮小したが、豆乳食ではコントロールマウスと同程度まで改善した。エストロゲン受容体βを性成熟期早期に短期間骨格筋特異的に欠損させた場合、筋力、筋量ともに有意に低下したが、成熟期後期に欠損させても差が無かった。骨格筋の成長課程でエストロゲン受容体βを介するシグナルが重要であると考えられた。
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