タンパク質を構成するアミノ酸は通常、全てL型であるが、加齢に伴ってアスパラギン酸(Asp)残基がL型からD型へ異性化することが明らかとなっている。特に水晶体の主要構成タンパク質であるクリスタリンでは、特定のAsp残基が著しく異性化する事が知られており、Asp残基の異性化と白内障発症との間に因果関係が示唆されている。Aspの異性化反応は加齢に伴って徐々に進行するほか、紫外線照射によって促進される事が先行の統計調査によって明らかとなっている。しかしながら、Asp残基は紫外線を吸収しないため、紫外線によるAspの異性化促進反応にはトリプトファン(Trp)やチロシン(Tyr)によって吸収されたエネルギーがAspへ転移することが考えられた。 これまでの検討で、ペプチド溶液へTrpやTyrを添加し、紫外線を照射してAspの異性化進行について検討を行ったが、TrpやTyrの添加は、逆に紫外線によるAsp異性化反応を抑制する結果が得られた。そこで、Asp異性化を促進させる環境について再度精査したところ、還元性のある糖の共存やpHの変化によってAsp異性化が促進される結果が得られた。 本年度は、これまでの結果の再現性を得るとともに、東京薬科大学動物実験委員会の了承のもと、マウス全身に対し、紫外線を週3回、10週間に渡って照射し、紫外線誘導性白内障発症モデルマウスの作成と水晶体クリスタリンのAsp異性化の相関性についての研究を実施した。しかしながら、このような長期間の紫外線照射にも関わらず、マウスは白内障を発症しなかった。紫外線照射強度は、自然界において照射される紫外線エネルギーを参考にし、0.1~0.3 mW/cm2に設定した。3度に渡る繰り返し実験を行ったが、白内障を発症したマウスは1匹も現れなかった。
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