研究課題/領域番号 |
16K16609
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
井上 博文 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (10639305)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鉄欠乏 / オートファジー / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
本研究では、現代食生活において若年層の過度なダイエットによる摂取不足が懸念されている鉄に着目した。鉄は必須微量元素であり、反応性に富む金属元素であることから生体内恒常性の維持に必要不可欠な栄養素である。これまでに、鉄過剰についてはフェントン反応を介したフリーラジカル産生を増大させることで様々な疾患の発症に関与する報告がある。一方、鉄欠乏に関しては、鉄欠乏性貧血や月経、運動選手に多く見られるスポーツ心臓といった生理現象が報告されている。加えて、カルシウムやマグネシウムといったミネラルのみならず、若年期における鉄摂取不足は、骨密度の低下を招くことが報告されており、超高齢社会を迎えた現代において無視できない問題である。しかしながら、鉄欠乏状態とこれら疾患との関係をつなぐ分子栄養学的な知見はあまりない。そこで本年度は、培養細胞と動物試験を行うことで、鉄欠乏時のビタミン類との関連を明らかにすることとした。まずはじめに、鉄キレート剤であるDFOをFAO細胞に処理することで、抗加齢タンパク質であるSMP30が減少することを定量的PCRおよびwestern blot法にて明らかにした。加えて、DFO処理濃度依存的に活性酸素種(ROS)が増大すること、細胞老化マーカーであるβ-Galactosidase活性が上昇することを明らかにした。これはSMP30過剰発現株で抑制されることを合わせて明らかにした。培養細胞において、SMP30はビタミンC合成酵素群としても知られていることからも、鉄欠乏状態はビタミンC合成能を低下させることが示唆された。動物試験を用いた結果、鉄欠乏食投与を行うことで、ビタミンD水酸化酵素であるCYP27b1の発現が膜画分において減少することを見出した。一方でビタミンE関連酵素については変動が見られなかった。今後、ビタミンDおよびE関連タンパク質群を網羅的に解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請課題では、鉄欠乏状態における脂溶性ビタミン類の変動を明らかにしていくことを目的としている。しかしながら、鉄欠乏時における脂溶性ビタミン類関連タンパク質群の変動が安定せず、実験条件の検討を行っている。一方で、マイクロアレイを用いた実験から、抗加齢およびビタミンC合成酵素群として知られているSMP30が鉄欠乏時において減少することを明らかにし、報告している。今後はLC-MSなどの質量分析装置を用いて、鉄欠乏時の組織中脂溶性ビタミン類を測定することで関連性を明らかにしていく予定である。 以上のことから、やや遅れているとの判断を致しました。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果をもとに本年度では、FAO細胞(ラット肝臓)に加え、L2細胞(ラット腎臓)、HepG2細胞(ヒト肝臓)、HK2(ヒト腎臓)を用い、老化を伴う鉄欠乏状態がビタミンDおよびE代謝に及ぼす機序を明らかにすることを目的とする。 具体的には、鉄欠乏モデルには鉄キレート剤(DFO)処理を行い、その後、ビタミンDおよびE代謝関連酵素であるCYP27b1, CYP3a1含むチトクロームファミリー、炎症に関わる細胞内シグナル伝達機構(JNK1/2-AP-1シグナル)と生体防御機構(Nrf2を介したシグナル)およびの3大シグナル伝達経路をreal time PCR法による遺伝子発現、western blotting 法によるタンパク質発現・翻訳後修飾の観点から明らかにする。また、前年度の動物組織試料があることからも、LC-MSを用いた脂溶性ビタミン類の検出を並行して行う予定である。以上のことから、本年度は、まず細胞レベルでの検討を行い、動物試験へと移行していく予定である。
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