糖尿病網膜症では、病態進行に伴い脆弱な新生血管の形成・破綻が起き、これらが網膜剥離や網膜裂孔を引き起こすため失明に至る。一方で、糖尿病網膜症の初期では、血管透過性の亢進や毛細血管瘤などの微小血管障害に先立って網膜神経細胞の変性・脱落が生じ、視力低下が進行することが知られている。我々は、生理活性ペプチドであるアペリンがアペリン受容体を介して網膜血管新生を促進することを明らかにしている。その一方で、グルタミン酸興奮毒性によって誘発される網膜神経障害に対してアペリンが保護作用を示すことを見出している。本知見を背景として、今年度では、糖尿病網膜症の初期段階でみられる網膜神経障害を阻止する治療法の開発を目指して、網膜神経保護薬としてのアペリンの有用性について検討を行った。糖尿病を自然発症するAkitaマウスを用いて検討を行った結果、約1年間の長期飼育しても網膜の機能低下が起こらなかったが、高血糖を呈し始める5週齢から高脂肪食を与えたところ、わずか.3週間で網膜の機能低下および神経の変性・脱落が起きる表現型が得られた。この網膜の機能低下および網膜神経細胞死は、アペリン遺伝子を欠損させたAkitaマウスにおいて、わずか2週間で起きることを見出し、内因性アペリンが本モデルで生じる網膜神経細胞死に対して保護作用を有することが明らかとなった。さらに、高脂肪食を与えたAkitaマウスにアペリン受容体を活性化する化合物を腹腔内投与した結果、網膜の機能低下および網膜神経細胞死がほとんど起こらないことを見出した。これらの結果は、アペリン受容体を活性化する薬物が糖尿病網膜症の初期段階で生じる網膜神経細胞死を阻止する新たな治療薬となる可能性を示唆している。
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