本研究では内臓脂肪で優位に発現する遺伝子が肥満・糖尿病の病態に関わる意義を検討する為に、マウスの大網、精巣上体、腸間膜、皮下の4種類の脂肪組織を摘出し、ヒトの内臓脂肪の遺伝子発現データと比較すると共に、内臓脂肪優位に発現する遺伝子の機能を解析した。 ヒトおよびマウスの内臓脂肪および皮下脂肪組織に発現する遺伝子の解析から、ヒト内臓脂肪優位な遺伝子はマウスにおいても内臓脂肪優位であることが認められた。その中で内臓脂肪優位に発現する4種類の転写因子に着目した。TetOn3Gベクターに各4種類の転写因子の遺伝子を組み込んだドキシサイクリン(Dox)誘導性のコンストラクトを作成し、C3H10T1/2細胞株にトランスフェクションしたのちに、薬剤セレクションおよびシングルセルクローニングを行い、各転写因子安定発現C3H10T1/2株を樹立した。さらに樹立した脂肪細胞株において、IN Cell Analyzerを用いて、分化誘導効率、脂肪滴サイズ、脂肪滴密度等について分析し、分化誘導過程における機能を解析した。 その結果、内臓脂肪で顕著に発現が高い転写因子の中で、Gata5遺伝子は分化前から発現を誘導することで、脂肪滴サイズを顕著に低下させ、脂肪細胞分化を著しく抑制することが認められた。さらに脂肪細胞分化に関わる遺伝子の発現を分析した結果、Gata5遺伝子の発現誘導は脂肪細胞分化初期に重要なCebpファミリー遺伝子の発現を顕著に抑制し、Ppargの発現を有意に低下させた。従って内臓脂肪で高発現する転写因子の一つであるGata5は脂肪細胞分化を負に制御することが示唆された。さらにGata5は内臓脂肪で高発現する分泌タンパク質の遺伝子発現を制御することを発見した。この分泌タンパク質は、高度肥満患者の減量手術1年後において有意に増加することから、新規のアディポサイトカインである可能性が示唆された。
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