水素水摂取は多様な疾患で病態改善効果を発揮するが、作用機序は未解明の部分が多い。本研究は炎症反応と酸化ストレス応答に着目し、その作用機序を解明することを目的としている。致死量のリポ多糖(LPS)を投与したマウスは敗血症によって数日で死に至るが、この敗血症モデルマウスに水素水を飲用させたところ、生存率が改善し、肝臓においてLPSで誘導される酸化ストレスマーカー(8-OHdG、4-HNE)の蓄積が抑制されていた。また、肝臓において水素水により抗酸化作用を有する内在性酵素ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現上昇することが分かった。肝臓のスライス培養系を構築し、水素水飲用群から摘出した肝臓のスライス培養にLPSを添加したところ、細胞傷害マーカーLDHの放出が抑制される傾向が見られたことから、肝臓における作用が重要であると考えられた。肝臓には肝細胞(肝実質)の他に、クッパー細胞や肝星細胞などの様々な非実質細胞が存在する。水素水を事前飲用し、LPSを投与したマウスの肝臓を摘出し、免疫組織化学染色や細胞分画後にウェスタンブロット法、定量的PCR法などによって解析したところ、肝実質においてHO-1の増加を確認した。このことから、水素の標的となる細胞は肝臓の実質細胞ではないかと推察された。また、水素が最初に作用する分子を調べるために脂質に着目した。培養液に水素を添加して培養した細胞から脂質を抽出し、質量分析を行ったところ、水素添加群の多くの脂質に変動が見られた。
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