セスペンドールは、糸状菌から初めて単離されたインドールセスキテルペンである。構造的な特徴としては、インドール環にエポキシアルコールを備えたC5ユニットが置換していることがあげられる。その構造から、これまでに明らかにしてきたインドールジテルペンであるペニトレム、シアリニンにおける修飾反応とは異なることが期待された。本研究では、生合成マシナリーの再構築により修飾反応に関わる酵素遺伝子を特定するとともにその機能解析を行った。 昨年度生産菌のゲノム解析からセスペンドールの生合成遺伝子クラスターを同定した。本クラスターは、インドールジテルペン・パキシリンの生合成における 3種の骨格構築酵素群(paxCMB)と高い相同性をもつ遺伝子に加え、3種の酸化還元酵素遺伝子が存在した。本年度はセスペンドールの酵素合成へ向け、麹菌異種発現系を用いて、各遺伝子の機能解析を行った。まず、骨格構築に関わる3種の遺伝子(spdEMB)を麹菌へと導入することで、5環性中間体prelecanindoleの生産を確認した。続いて、残る修飾酵素遺伝子(spdQHE(PT2)J)を先の形質転換体に追加導入したところ、セスペンドールの生産を確認した。また、導入する遺伝子の組み合わせを変える(spdQH)ことで生合成中間体であるlecanindole Bも取得した。さらに、インドール環に置換基をもたないパキシリンを修飾酵素遺伝子導入株に投与したところ、ジプレニル化体とその酸化生成物の生産を確認した。これより、インドール環の修飾はプレニルトランスフェラーゼ(SpdE)/シトクロムP450(SpdJ)酵素のセットによって触媒することがわかった。また、ロリトレム生合成クラスターにこれらの酵素をコードする遺伝子の機能解析により、インドール環に融合した二環式骨格の生合成はペニトレム、シアリニンと異なる経路を提案することができた。
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