研究課題
細胞治療では移植細胞の多くが細胞生着前に細胞死するため、十分な細胞生着を得るためには大量の移植細胞を調製しなくてはならない。この問題を解決するため、研究代表者らは高価なタンパク質製剤ではなく、安価に大量合成が可能な人工小分子による細胞死の抑制を目指した。細胞表面に接着する分子骨格(アドヘサミン)を用いて多様な誘導体を合成し、自己集合性のFFペプチドを導入したアドヘサミン誘導体(Adh-SFF)が効果的に細胞死を抑制することを見出した。WSTアッセイ・DLS・電子顕微鏡・免疫染色・Western blotなどの評価を行うことによって、本分子は細胞表面のシンデカン4を認識すると、サブミクロンサイズの自己集合体形成を介して細胞生存に関わるPKCα-MAPKシグナルを誘導することを解明した。さらに研究代表者らは細胞生着効率を高める新たな案として、上記の自己集合体構造にMMP2を修飾することを検討した。MMP2による細胞外マトリックスの分解で生じた隙間に細胞が浸潤することによって移植細胞を広範囲に生着させることを目的としている。本検討ではHalo-tag ligandを結合したAdh-SFF誘導体による自己集合体構造にHalo-tag/MMP2融合タンパク質を導入する技術を確立し、生存活性と浸潤能を同時に高めた移植細胞の調製を可能とした。共同研究先である東京理科大学西川研究室の下で、本技術で生存活性と浸潤能を高めた移植細胞をマウス皮下へ移植して24時間暴露後の生着状態を確認した。その結果、本技術で処理した移植細胞を用いると飛躍的に皮膚組織での生着効率が向上するだけでなく、近傍の筋組織内への細胞浸潤も確認された。現在、本技術の汎用性を確認すべく、心不全モデル動物への心筋細胞移植で本技術による効果を評価している。さらに将来的には、多様な細胞種へ展開可能かどうかを確認していく予定である。
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