研究実績の概要 |
初年度である平成28年度は,ヒト成熟肝細胞からのCLiP誘導の可能性について検討した.げっ歯類でのリプログラミング因子を少し改変することで,乳幼児のヒト肝細胞をリプログラミングできることを明らかにした(詳細に関しては特許申請中のため記述を控える).誘導されたヒトCLiPはEPCAM, CD24, CD133, CD49f, CD44といった,一連の肝前駆細胞マーカータンパクを発現し,少なくとも10回以上継代培養可能であった.また,オンコスタチンMの刺激を与えることで,肝細胞の機能に関わる遺伝子の発現を誘導することも可能であった.重要なことに,この細胞を免疫不全肝障害モデルマウスであるcDNA-uPA/SCIDマウスに移植すると,血中ヒトアルブミン濃度は最大15 mg/ml以上に達し,置換率は90%以上に達した.過去の培養細胞の移植では,血中ヒトアルブミン濃度は最大でも1 mg/ml以下,置換率は30%以下であったことからも,本研究の成果が極めて重要であることがわかる.以上の通り,初年度において既に,本研究計画のStep 1, Step 2, Step 3の重要項目を概ね完遂できたと言える.2年目はStep 2の課題の一部である胆管分化の可能性を探るとともに,長期培養後のヒトCLiPの移植によっても高置換の肝再生が可能となるかどうかに重点をおいて研究を進める.さらに,代謝活性に焦点を当てて,移植後のヒト細胞が機能的な肝細胞になっているかどうかについても検討していく.
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題は(1)ヒトCLiPの胆管分化能の評価,(2)ヒトCLiPの染色体・ゲノム安定性の評価,(3)長期継代後のヒトCLiPが障害肝臓の再生に寄与しうるかどうかの評価,(4)成人肝細胞からのヒトCLiP誘導の可能性の検討,の4つが主たるものとなる.具体的な研究方針は以下のとおりである. (1)ラット・マウスでの実験と同様の条件で,ヒトCLiPからの胆管分化誘導を試みる. (2)複数回継代を重ねた細胞を用い(継代数1, 5, 10が目安),カリオタイピングおよび,発がん関連の遺伝子についてのサンガーシークエンスを行って評価する. (3)継代数1, 5, 10の細胞を肝障害免疫不全マウスに移植することで,どの程度継代数を重ねた細胞でも再生能が維持されているかを検討する. (4)リプログラミング刺激を与えた際に,乳幼児肝細胞と成人肝細胞とで発現変動する遺伝子プロファイルおよび,パスウェイ群を探索する.これにより,成人肝細胞のリプログラミングの誘導に必要な刺激をある程度予測できるようになると考えている.
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