生体の生理機能は日内変動を示し、多様な機能を最適な時間に配分することで1日の環境適応を円滑に行うことができる。生理機能の日内変動は、哺乳類では視床下部の視交叉上核に存在するサーカディアン中枢よって制御される。視交叉上核は約2万個の神経細胞で構成されており、神経入力・出力の神経投射や放出する神経ペプチドやホルモンに違いをもつ多様な神経細胞集団があることが分かっている。さらに我々のこれまでの研究により、個々の神経細胞は細胞内カルシウムイオン(Ca)濃度が約24時間周期で変動すること(概日Caリズム)が分かっている。一方神経細胞の細胞内Caは一般的に、活動電位の発射などの電気活動に伴いミリ秒~秒単位の時間経過をもつ一過性変動を示すことが知られている。このことから概日Caリズムは一過性Ca変動の頻度や振幅の概日変動によって生じていることが考えられる。本研究ではこの可能性の検討を行った。 本研究成果から、視交叉上核神経細胞は一過性Ca変動を示さず概日Caリズムは細胞内Caの静止濃度の変動であると結論づけた。しかし本実験系では一過性Ca変動を検出できていない可能性も示唆された。室傍核・旁室傍核領域での観察により、これらの領域では細胞内Ca濃度に30分から4時間程度の短周期のウルトラディアンリズムが観察された。このウルトラディアンリズムはミリ秒スケールの一過性Ca変動の頻度が変動することにより形成されることが分かった。これにより本実験系は観察環境として十分であり、結論はより強固なものとなった。本研究ではさらに、神経投射を受けないよう物理的に単離した培養視交叉上核においても概日Caリズムがあることを発見した。このことから視交叉上核神経細胞は自律的に細胞内Caの静止濃度を変動させ、概日Caリズムを形成していることが分かった。
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