研究課題/領域番号 |
16K16647
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
濱田 駿 山梨大学, 総合研究部, 特任助教 (90755464)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バリコシティー / プレシナプス / アクティブゾーン / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
外傷性脳損傷患者の死後脳では、神経軸索上にバリコシティーと呼ばれる瘤状の構造が増加することが知られている。外傷性脳損傷患者には身体の一部の麻痺、感覚障害、記憶障害などの高次脳機能の低下が起こることが知られているが、脳ダメージ後にどのようにバリコシティー構造が形成されるのか、また、バリコシティー構造が外傷による高次脳機能の低下とどのような関係があるのかはいまだ良く分かっていない。我々はアクティブゾーン蛋白質CAST KOマウス由来の初代培養神経細胞において、バリコシティー構造が肥大、増加することを発見した。CASTはアクティブゾーンに強く局在し、他のアクティブゾーン蛋白質と強く結合する蛋白質であるため、アクティブゾーン蛋白質がバリコシティー構造の制御に何らかの役割を果たしていると考え、このメカニズムの詳細を研究することにした。しかしながら、通常の培養環境では多数の神経細胞の突起が複雑に張り巡らされているため、その構造の解析が困難であった。そこで、神経軸索に見られるバリコシティー構造に対するアクティブゾーンタンパク質CASTの影響を調べる実験系を最適化するために、神経細胞の細胞体、樹状突起から軸索を分離するマイクロ流体デバイスの開発を行いその使用法の検討を行った。その結果、培地の環境を整え、軸索分離用の溝近辺に神経細胞を集めることにより、神経細胞の細胞体や樹状突起から軸索を分離して伸長している様子が観察された。現在はこの培養容器での遺伝子発現導入法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
神経細胞の軸索の形態の観察を行いやすくするため、市販品されている神経細胞の軸索分離培養デバイスを参考にさらに小型化した培養デバイスを試作した。試作品は顕微鏡等の実験機器に用いることを可能にするため、デバイスの外径を10 mmとし、その内部に細胞を入れる空間と、軸索を分離するための幅7 μm、長さ450または900 μmの溝、分離された軸索が伸長する空間を設計した。設計したデバイスは微量の培地で培養するため、従来の培養環境とは大きく異なることから、まず培養方法の確立から行った。色々試していく中で、この培養容器で培養していくには通常とは異なる問題が発生することが分かった。具体的には培地が蒸発して水分がすぐなくなってしまう、軸索分離用の溝にうまく軸索を誘導できないなどの問題が発覚した。試行錯誤の結果、安定した培養には一定量の細胞数が必要であり、さらに水分の蒸発を抑える、軸索分離用の溝の手前に細胞を効率よく集めておくなどの工夫を行うことによって、少なくとも3週間ほどの培養が可能になった。現在、培養細胞への遺伝子導入を試みているが、軸索を軸索分離用の溝を経て反対側に伸長する神経細胞に効率よく導入することがうまくいっておらず、検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在作製した試作品を用いて、野生型およびCAST KOマウス由来の神経細胞を培養し、一定期間培養したのちにバリコシティーの大きさ、数等を比較することで、CAST蛋白質のバリコシティー形成への関与を検討する。また、CASTと結合し小胞輸送に関わる低分子量G蛋白質Rab6の阻害剤Brefeldin A投与によるバリコシティーの変化を検討する。これらの実験結果に顕著な差がみられなかった場合は、数日おきに細胞を免疫染色し、バリコシティー形成に関わる蛋白質の時系列的な変化を解析する。また、遺伝子の導入方法を様々なものを検討し、軸索分離した細胞へ効率よく遺伝子を導入する方法を確立する。例えば、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターによる導入法を想定している。CAST KO細胞でバリコシティーに変異が見られた場合は確立した手法を用いてCAST KO細胞にCAST蛋白質の特定の分子結合領域の欠失変異体を発現させ、バリコシティー形成に関わる分子間相互作用を同定する。また、CASTの関与が見られなかった場合は、バリコシティー形成に関わる遺伝子の過剰発現やshRNAによる抑制、遺伝子の機能失活型の点変異体による遺伝子機能とバリコシティーとの関連性を調べていく。上記の実験により、未だ性質の分かっていないバリコシティーの形成のメカニズムやアクティブゾーン蛋白質の関り等を明らかにしていく。
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