本研究は、被験者自身が脳活動を操作することで精神活動・運動行動の技能を向上させる方法の確立を目指す。ある課題を行う際の個人の脳活動パターンの特徴(癖)を数次元程度のパラメタで表現し、その課題が上手な人(熟練者)の脳活動パターンの癖に近づけることで技能向上を図る。本研究が完成すれば、脳の使い方を学ぶまったく新しい精神活動・運動のトレーニング法を提案することができる。 先行研究から暗算課題は熟練度に応じて動員する脳領域に違いがあることがわかっている。また、28年度におこなった行動学実験で、課題に暗算能力検定(日本珠算連盟)4級程度の暗算課題を用いれば、多くの被験者は問題に回答することは可能であるが、正答数、回答時間に差がみられるため、能力の差が明確になることがわかった。 この結果を受けて、29年度に算能力検定4級程度の暗算に回答する際の脳活動計測を行った。被験者はfMRI装置の中で暗算能力検定4級程度加減乗除の暗算課題を行なった。また同じ被験者は、fMRIの外で暗算能力を検査する行動学実験にも参加した。行動実験の結果を解析すると、前年度の予備実験からの予想通り、大部分の被験者は課題の遂行が可能であるが、その平均解答時間に大きな差があった。 全ての実験において参加する被験者には、口頭および書面で実験の内容を説明し、参加同意を確認した。実験はヘルシンキ宣言を遵守して実施され、実験結果の取り扱いにあたっては、プライバシーに十分配慮を行なった。 平成30年度、平成31(令和元)年度にかけて、このパフォーマンスの個人差と計算課題中の脳活動の関係を調査したが、十分な説明ができ、パフォーマンスが予測可能なモデルの作成に至らなかった。被験者数が不足していたか、十分なモデル構築ができなかったのが原因だと思われる。
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