研究課題/領域番号 |
16K16651
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研究機関 | 弓削商船高等専門学校 |
研究代表者 |
續木 大介 弓削商船高等専門学校, その他部局等, 助教 (50646346)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乳幼児 / 脳機能計測 / 拡散光イメージング / 参照脳 |
研究実績の概要 |
平成 28 年度は、確率的 DOT の基礎的な技術およびデータ処理フローの確立とバリデーションを目的としたシミュレーションを行った。本研究課題で提案した確率的 DOT は、複数の参照脳 MRI ボリュームデータによって光伝播の順問題解析を行うとともに、被験者自身の頭部で計測した脳血流におけるヘモグロビン動態を用いた逆問題解析を行い、被験者頭部として見立てた参照脳においてヘモグロビン濃度分布を求める(画像再構成を行う)手法である。 従来の DOT に対する本手法の特長は、複数の参照脳を用いることにより、被験者自身の脳構造画像の撮像を不要とし、なおかつ脳機能画像の確率表現を可能とする点である。その一方、本イメージング法の実施に先んじて、被験者自身の脳構造画像の代わりに参照脳を用いることにより、再構成された画像にどの程度の空間的な誤差が生じるかを確認することが重要になる。 本年度は、バリデーションによって誤差を明らかにするため、9 例の被験者 MRI データセット、および 11 例の参照脳 MRI データセットを用意し、それらの MRI データからアフィン変換を用いて 99 例の新規 MRI データを作成し、単一参照脳ではなく複数参照脳によるシミュレーションとバリデーションを行った。その結果、単一参照脳を用いた先行研究の ADOT (Atlas-based DOT) に対し、複数参照脳を用いた確率的 DOT の誤差が、遜色のない実用的な値であることを確認することができた。これは、確率的 DOT が、精度の上では ADOT と同等であり、なおかつ再構成された画像を確率表現するためのロバストな手法たりうることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 28 年度の研究実施計画として予定していた参照脳の作成と光拡散シミュレーションの実施に関して、問題なく進めることができた。本年度は、単一の参照脳を用いる従来法である ADOT (Atlas-based DOT) と大きく異なる部分である「頭表ランドマークの座標を用いたアフィン変換による複数の参照脳の作成」を実施し、新規に作成した参照脳 MRI データセットを組み入れた上で、確率的 DOT のシミュレーションを行った。このシミュレーションは、主に ADOT と確率的 DOT とのイメージング精度(空間的誤差)の違いについて検討することを目的として行ったが、その結果、確率的 DOT の精度が ADOT に比肩するものであり、さらに、確率的 DOT が、再構成された画像を確率的に表現するためのロバストな手法であることが示唆された。 ただし、当初予定していた、再構成画像の MNI 標準座標系への空間的標準化および MNI 標準座標系での確率表現に関しては、確率的 DOT のバックエンドとして機能している FreeSurfer との親和性が高いとはいえない。MNI 標準座標系が 3 次元直交座標である一方、FreeSurfer の座標系は Spherical inflation によるメッシュで表現されており、相互変換が可能であるものの、再構成画像の処理が複雑になるためである。そのため、MNI 標準座標系でのデータ処理を含まない、現時点でバリデーションを終えている確率的 DOT を mDOT (Multi atlas-guided DOT) と呼称し、MNI 標準座標系でのデータ処理を含む確率的 DOT を pDOT (probabilistic DOT) と呼称し、各々を異なる確率的 DOT として発表することにした。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、今後、確率的 DOT のデータ処理フローを段階ごとに分け、MNI 標準座標系での処理を含まないものを mDOT (Multi atlas-guided DOT) と定義し、MNI 標準座標系での処理を含むものを pDOT (probabilistic DOT) と定義した上で、研究を進める予定である。pDOT に関しては、複数参照脳において得られた再構成画像を MNI 標準座標系に変換するだけではなく、再構成画像に対して 3 次元ガウス分布による空間的な重み付けを行うという新たな手続きを加えることで、より MNI 標準座標系での表現に適した形での確率的 DOT の実現を試みる。また、pDOT では、既に MNI 標準座標系でゴールドスタンダードとなっている AAL (Automated Anatomical Labeling) や LPBA40 (The LONI Probabilistic Brain Atlas) といったボクセルベースの解剖ラベルの参照までを視野に入れ、完成を目指す。 本研究課題での最終目的は、成人ではなく乳幼児を対象とした、被験者自身の MRI の不要な非侵襲脳機能イメージング手法の実現である。乳幼児を対象とした確率的 DOT の実施を想定した場合に、成人の参照脳データセットを直接使用することは好ましくなく、乳幼児の頭部形状と脳の解剖特性に応じた参照脳データベースの作成を念頭に置くべきである。そのため、mDOT と pDOT の研究に並行し、4D neonatal head model (Brigadoi et al., 2014) とともに The National Database for Autism Research 所収の乳幼児 MRI を参照し、適切な参照脳を作成するためのモデルを模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に向けて所属の変更と異動が確定となり、研究の効率的かつ円滑な遂行のため、シミュレーション用機器の購入を、次年度に変更する必要に迫られたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として計上した金額およびシステムの品名・仕様を大きく変更することなく、平成 29 年 10 月までに助成金を用いて物品を購入する。
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