研究課題/領域番号 |
16K16653
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
田中 慎吾 玉川大学, 脳科学研究所, 特任助教 (30597951)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ECoG / 皮質脳波 / 価値 / 学習 / 前頭前野 / ニホンザル / デコーディング |
研究実績の概要 |
選択肢の価値を元にした意思決定には、選択肢の価値計算や比較が必要であり、前頭前野の様々な領野がこのような機能を担っている。しかし、前頭前野における、学習に伴った価値情報生成メカニズムについてはいまだ詳細は不明なままである。本研究では多点ECoG (Electrocorticogram)電極用いて、コンテクスト依存的な価値を学習中のECoG信号を継続して記録し、価値情報とコンテクスト情報の生成過程を高時間解像度で検証することで、大脳皮質における学習メカニズムの解明を目指す。 そのために、平成28年度は、ニホンザル前頭前野の複数領野(LPFC、MPFC、OFC、ACC)にインプラントする多点 ECoG 電極を設計・開発し、二頭のニホンザルの左半球へのインプラント手術を行い、あわせて頭部固定具のインプラントも行った。これらのニホンザルに対し、注視課題とボタン押し課題の訓練を施した。また、コンテクスト依存的な価値学習プロセスを観察するために、コンテクスト依存的価値学習課題の設計と、課題制御システムへの実装を行った。さらに、記録されたECoG信号から報酬価値をデコードするための、SLR(Sparse Logistic Regression)アルゴリズムを用いたデコーディング手法の開発に成功した。 平成28年度に準備されたニホンザルおよびデコーディング手法を用いて、コンテクスト依存的価値学習課題中の、ECoG信号を記録し、そこに含まれる価値情報をデコードすることで、前頭前野ネットワークにおけるコンテクストおよび価値情報生成過程の解明につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、サル前頭前野の広範囲からECoG信号を記録し、学習に伴う価値およびコンテクスト情報の生成過程を解明することを目的とする。ECoG信号を記録するため、まず、ニホンザルの前頭前野三領野、眼窩前頭野(OFC)、内側前頭前野(MPFC)、外側前頭前野(LPFC)それぞれに 64chのECoG電極をインプラントする計画であったが、近年の研究では、前部帯状回(ACC)においても、価値関連情報が処理されていると報告されている。そこで、LPFC、MPFC、OFC、ACCにインプラントするための、多点 ECoG 電極を新たに設計・開発した。開発したECoG電極を二頭のニホンザルの左側前頭前野にインプラントし、回復後、頭部固定具のインプラントも行った。ECoG 電極のインプラントを行ったニホンザルに対し、価値学習課題の訓練を施し、課題遂行中の神経活動を記録する計画である。そのために、コンテクスト依存的価値学習課題の設計を行い、課題制御システムへの実装を行った。本課題中、ニホンザルは注視点を注視し、ボタンを押す必要がある。そこで、コンテクスト依存的価値学習課題の訓練に先立ち、注視課題とボタン押し課題の訓練を施した。本研究では、価値学習課題中に記録されるECoG信号から、SLRアルゴリズムを用いて、報酬価値をデコードする計画である。そこで、他プロジェクトで得られたECoG信号を用いて、SLRアルゴリズムを用いたデコーディング手法の開発を行い、報酬の種類のデコーディングに成功した。本研究により得られるECoG信号に対して、このデコーディング手法を適用すれば、報酬価値のデコーディングが可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度にECoG電極をインプラントしてニホンザルに対して、コンテクスト依存的価値学習課題の訓練を施し、課題遂行中のECoG信号を記録する計画である。当初の計画であれば、平成28年度中に一頭目のサルを用いて、コンテクスト依存的価値学習課題中のECoG信号を記録し、解析を行う予定であったが、ECoG電極の再設計を行ったこともあり、計画に少し遅れが生じている。しかし、ECoG電極のインプラントや基本的な注視課題の訓練は二頭のサルについて完了している。また、課題制御システムも完成しているので、二頭のサルに対し、コンテクスト依存的価値学習課題の訓練を同時に、かつ効率的に施すことが可能であると考えている。さらに、ECoG信号を利用して、報酬価値をデコーディングする手法の開発も完了しているため、コンテクスト依存的価値学習課題の訓練に伴って記録されるECoG信号を随時解析することが可能である。コンテクスト依存的価値学習課題中のECoG信号を解析することで、価値情報・コンテクスト情報の生成過程の比較を行うとともに、前頭前野ネットワークにおける価値情報・コンテクスト情報の表現様式についても比較検討する。以上のような解析結果をまとめることで、コンテクスト依存的な報酬予測学習過程における、コンテクスト情報と価値情報の生成過程について考察し、最終的に、研究成果の学会発表、論文の準備・投稿を行い、研究をまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、平成28年度中に電気記録実験を開始し、記録されるECoG信号の解析を行う予定であった。解析用に高性能コンピュータを購入予定であったが、記録実験に遅れが生じたため、コンピュータの購入を延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の早い時期に、電気記録実験を開始する計画であるので、その開始時期に合わせて、解析用高性能コンピュータを購入する計画である。
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