研究課題/領域番号 |
16K16654
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笠井 昌俊 京都大学, 医学研究科, 助教 (70625269)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 上丘 / マウス / 2光子顕微鏡 / カルシウムイメージング / in vivo / 視覚 / 覚醒下 |
研究実績の概要 |
本研究では,上丘における視覚特徴抽出,視覚情報処理の詳細を,多細胞集団の神経活動パタンに基づいて明らかにすることを目標としている.上丘の機能としては従来,注意を向ける視覚対象に素早く目を向けるための「視覚ー運動変換」に多く注目されてきた.一方で,視覚情報処理そのものに関してはまだ詳しく調べられてこなかった.上丘で視覚情報を受け取る浅層では,Retinotopy と呼ばれる網膜部位再現による,視覚刺激の位置情報の表現が主に知られてきたが,視覚刺激の特徴抽出やその情報処理様式そのものについては,長い間あまり注目されていない.近年,Meister 達のグループや Cang 達のグループらの報告では,上丘浅層の神経細胞の持つ視覚応答特性として,方位選択性や動きの方向選択性,が特定の構造で表現されているということが報告され,注目が高まっている領域である. 平成28年度としては,上丘の多細胞神経活動を慢性的に記録手法を確立し,長期間安定な記録を目指した.アデノ随伴ウイルスベクターを介して GCaMP と呼ばれるカルシウム感受性を持つ蛍光タンパク質を上丘の神経細胞に発現させた.さらに,長期的に安定的に上丘でのイメージングをおこなうため,観察領域を綺麗に保つ必要があり,微小なガラスキューブを脳内に埋め込む手法を試した.これにより,現在のところ 100 日以上の長期間,同一の動物個体の,同一の神経細胞集団から,定期的に神経活動を記録することが可能になった.現在も動物は生存している.また麻酔下記録から,覚醒下記録に移行しより生理学的な条件においての上丘の神経活動を記録が可能になったと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成 28 年度は,7 月に所属する研究室が生理学研究所から京都大学への移動が決まり,前半から研究を止める期間ができてしまった.実際には,5 月から実験を止め,実験システムを解体し,6 月末に引っ越し,7 月搬入後から実験 システムの組み立て・再セットアップをおこなう必要があった.一方その間に,慢性記録のための,埋め込み用のガラスキューブ設計・作成,や,覚醒下慢性記録のための,軽量高硬度のチタン性ヘッドプレートなどの設計・作成などの下準備を平行して進めることができた.セットアップ後,それらを実際に組み合わせ順調に神経活動の記録ができる条件を見つけることができた.なお,現在 3 ヶ月以上の安定的な記録が可能な動物標本を作ることが可能になっている. 覚醒下実験の場合,頭部固定したマウスは,視覚刺激の提示によって,サッケードと呼ばれる速い眼球運動の頻度が上昇することも確認できた.上丘の視覚応答は,網膜に移る視覚刺激の場所が重要になるため,眼球運動による視覚刺激の位置ずれのために応答が変化する.さらに,眼球運動に関連した神経活動の関与も考えられることから,眼球運動と神経活動の応答は注意してみる必要がある.また,マウスの活動状態が上昇することも観察されており,運動状態を注意して解析する必要があることが認識できた.そこで小型 CCD カメラを用いた,瞳孔検出からの眼球運動の測定を行うとともに,回転可能なディスクに頭部固定マウスを載せることににより,歩行や走行などの運動情報も記録できるように実験セットを拡張し,現在解析を進めている. 視覚応答については,様々な形状の画像セットを用いて視覚刺激をおこない,細胞集団の応答パタンを記録し,データを収集できており,こちらも現在解析を進めているところである.網膜からの視神経の投射とその視覚応答の記録は,現状では条件検討の段階にとどまっている.
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今後の研究の推進方策 |
まず,上丘への入力パタンの解明として,網膜からの視神経の投射とその視覚応答の記録をすすめていく.マウスの眼球,特に,硝子体内に AAV-GCaMP6 を注入することで,網膜神経節細胞に AAV を感染させ,その軸索にまで GCaMP を発現させるための条件検討をおこなっている.現状では,感染効率がまだ弱く,眼球を取り出し網膜を観察してみると,小さなかたまった領域にのみ蛍光が確認できるに止まった.同様に AAV に感染した細胞から伸びる軸索も網膜内では観察されたが,上丘でその軸索末端をはっきりと観察するにはいたっていないため,AAV のセロタイプ,濃度,量,注入方式など,条件検討を進めていこうと考えている.十分量の入力繊維が,上丘で観察できるようなれば,上丘の神経活動を記録するのと同様に,視覚刺激を用いて,受容野の解析をおこなうとともに,様々な視覚刺激をおこなうことで,神経入力の空間的な応答パタンの解明を進めていきたいと考えている.
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