研究課題/領域番号 |
16K16655
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津田 浩司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60581022)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 『共栄報』 / 華僑 / ジャワ / 日本軍政 / インドネシア |
研究実績の概要 |
平成30年度は、前々年度までに入手していた『共栄報(Kung Yung Pao)』華語版・マレー(ムラユ)語版のデータ(インドネシア国立図書館所蔵の同資料簡易撮影データ、および同図書館で1985年に作成されたマイクロフィルムの複製データ)を基に、『共栄報』の紙面分析を進めた。 5~6月には、朝日新聞東京本社所蔵のジャワ新聞会関連資料の精査を進めた。ジャワにおける新聞発行業務は、軍からの委託を受けた朝日新聞社が一手に握っており、ジャワの新聞各紙(『共栄報』を含む)を管理・監督するものとしてジャカルタに設置されたジャワ新聞会からは、東京の朝日新聞本社宛に定期的に報告が上げられていた。それら報告資料の精査の結果、『共栄報』の発行部数、社員数や会社資産等の情報を具体的に把握することができた。 上記に加え、日本軍政を経験した華僑当事者の回想録や档案資料等を渉猟した結果、『共栄報』華語版の発刊の経緯やそれに関与した人物について、(資料の性質上断定するには至らないものの)いくつかの可能性を示すことができた。上述の一連の成果は、東南アジア学会2018年度第1回関東例会、および南山大学外国語学部アジア学科セミナー「『国民国家』インドネシア再考」において、報告を行った。 平成30年度の成果として特筆すべきは、『共栄報』を復刻刊行したことである。冒頭で述べた前々年度までに入手済みであったデータ中には、歪みやピンぼけ等のため判読不能の状態のものが相当な割合で混在していたため、インドネシア国立図書館および出版社と調整を行い、8月に改めて高精細撮影を行った。こうして得られたデータに、詳細な解題(『共栄報』の発行の背景やその経緯、社内編集体制や紙面の内容の分析を含む。解題は日本語に加え中国語訳を収録)を付して、台湾(漢珍数位図書)と日本(ゆまに書房)から復刻刊行(全32巻+別冊1)するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、『共栄報』の紙面分析を一層進めた。年度末時点で、華語版紙面に登場する華僑系の主要組織、学校、およびそこで要職を占めている者として言及される人名(約1800名)を網羅的に抽出し、一覧にまとめた。一般に1940年代というのは、ジャワに限らずインドネシア全般の華僑史研究を進めていく上で、資料等の欠如から「ミッシングリンク」とされてきたが、膨大な量にのぼる上述の紙面抽出情報は、これまで謎に包まれてきた軍政下ジャワの華僑社会内外の生活実態・政治過程を今後具体的に明らかにし、かつその前後の時代との連続性や断絶を検討していく際に、不可欠の資料となるだろう。 また、朝日新聞東京本社所蔵のほぼ未整理状態の資料(段ボール4箱分)へのアクセスにより、これまでおぼろげながらにしか分からなかった『共栄報』の刊行経緯や社内編集体制の内実解明に一段と踏み込むことができた。これらの成果は、2度の研究会で仔細に報告し、インドネシア華人史や日本軍の南方軍政研究の文脈で新たな知見を提供できた。 これまでの紙面分析および周辺資料の精査結果を踏まえ、『共栄報』の解題を上梓し、その中国語訳(山田清・訳)を付して、『復刻 共栄報 1942~1945』(漢珍数位図書/ゆまに書房, 2019年3月, 全32巻+別冊1)として、台湾・日本から同時に刊行した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、『共栄報』マレー語版の精査を進め、紙面に登場する華僑系の主要組織、学校、およびそこで要職を占めている者として言及される人名のリストアップ(および華語版との照合)作業を進めるとともに、データ公開を行う。 また、解題の英訳作業を進め、より幅広い読者に向け資料紹介に努める。 最終年度の作業として、これまでの研究成果を統括する作業を行う。
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備考 |
研究代表者の研究活動を紹介するWebページ内に作成した、本研究成果に関わる特設ページ。資料の概要と意義等について概説を行っている。また同ページでは、『共栄報』掲載記事より抽出・整理した各種情報を、「『共栄報』データベース: 日本軍政期ジャワの華僑社会」と題して、研究者向けにパスワード付きで限定公開している。
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