研究課題/領域番号 |
16K16658
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鴨志田 聡子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (10773848)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 移民言語 / ヘブライ語 / 移民コミュニティー / 言語共同体 / ユダヤ / イスラエル / イディッシュ語 / イスラーム |
研究実績の概要 |
イスラーム地域出身のユダヤ人の言語的多様性についての調査を進めた。初年度は、イスラエル国における彼らの宗教的な活動と非宗教的な活動に注目した。 6月から7月にかけて実施したイスラエルにおける現地調査では、イスラーム地域出身のユダヤ人の宗教的な活動としてはイスラーム地域出身者の礼拝とその後の談話を参与観察した。礼拝は礼拝用のヘブライ語、その後の談話は(現代)ヘブライ語で行われていた。 調査者はそこで偶然にも東欧出身者を含む家族と知り合い、イディッシュ語で会話した。すると彼らが調査者をコミュニティーの他のメンバーに次々とヘブライ語で紹介し、ヘブライ語で談話した。イディッシュ語を話者からの「紹介」により、調査者はある程度そこで受け入れられた。 しかし、非宗教的かつ持続的な共同体の活動(例えばイディッシュ語の場合のような言語が核になっている言語共同)は直接確認できなかった。そこで、非宗教的な活動については、イスラーム地域出身者二世のユダヤ人作家二名の作品を分析し、彼らと直接会って聞き取り調査を行った。すると、作品の中に現れる出身地や言語は、彼らの属性をはっきりと示す記号であり、自分たちを他のユダヤ人たちから差別化するための機能を持っていることがわかってきた。イスラエル国では、現代ヘブライ語はよりニュートラルな意味を持った記号、話者の出身地がある程度特定できる移民の言語(例えばイディッシュ語)は話者の属性を強く示す記号として機能しているようだ。調査の経過はThe Alumni Workshop of the International Forum of Young Scholars on East European Jewry in Jerusalem (エルサレム・ヘブライ大学、2016.6)、東京移民言語フォーラム TAFIL16 (東京大学、2017.4)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
地域情勢の変化などを受け、計画的な調査の遂行が容易ではなかった。例えば調査者は初年度、調査予定地で二日前におきたテロのために急遽止むを得ず渡航を中止した。このようなことから、当初予定していたいくつかの調査が実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、イスラーム地域出身のユダヤ人の言語共同体の活動の参与観察、イスラーム地域におけるユダヤ人共同体の出版物の調査に重点を置く。現地調査は、イスラエルと米国の他、エジプトやトルコで実施することを予定している。一次文献の調査には、イスラーム地域での出版物のデジタル・アーカイブズ(テルアヴィヴ大学)を使用する。 研究計画の変更点として、今後、ラディノ語(ジュデズモ)の学習活動 (とくにイスラエルと米国における活動)の調査に重点を置くことにした。ラディノ語は、ユダヤ人独自の言語としては、イディッシュ語に次いでよく知られている言語で、イスラーム地域のユダヤ人の言語の中では、例外的にいくつかの言語共同体が確認される。 イスラーム地域出身のユダヤ人においては、出身地の言語からヘブライ語への言語シフトが比較的早く進んだようで、イディッシュ語のような言語共同体の活動が確認しにくいため、参与観察がしにくい。地域情勢の変化などによる調査内容の変更を受け、万が一現地調査が計画的に行いにくくても研究成果を出せるように、どこからでもアクセス可能なインターネット上のリソースを使うことにした。特にイスラーム地域に住んでいるユダヤ人の出版物の調査に重点を置くことにした。このデータを利用して、いつ、どの地域で、どういった組織によって、どのような出版が行われていたかについて調査を進める。また、初年度の調査により、エルサレム・ヘブライ大の図書館には、イスラーム地域のユダヤ人によるオーラルヒストリーのデータがあることがわかっている。今後はこのデータも分析の対象とし、これによって出版物の分析データを捕捉する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたトルコ、イランへの渡航を地域情勢を考慮して急遽中止し、その差額の一部を関連書籍の購入にあてたため。
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次年度使用額の使用計画 |
トルコへの渡航を再度試みる他、エジプトへの渡航にあて、調査を進める。
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