研究課題/領域番号 |
16K16662
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 利和 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (50750626)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Ethio-Tabi / 地下足袋 / 労働履物 / 履物文化 / 実戦的地域研究 / 協働 / BOPビジネス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、農民の裸足での農作業時の怪我による疾病の持続的な予防のモデルケースを、「地下足袋」を例に探求することにある。アフリカでの労働履物の創造に積極的な、起業家、開発実務家、研究者、地域住民と協働で、「地下足袋」創造のプロセスに必要な知識、制度、を明らかにし共有する。エチオピア中央高原に位置するオロミヤ州ウォリソ周辺を主な調査対象地とする。 初年度の平成28年度では国内における具体的な協働の形について検討した。Asahi Shimbun Globeとの協働による宣伝(7月27日配信のウェブ版)では、分野を超えた情報の共有を可能とした。その結果、日本の地下足袋会社の老舗「丸五」の研究協力が実現し、試用依頼用の地下足袋を30足提供してもらった。 9月から1月まで145日間実施したフィールドワークでは、30足の地下足袋をこれまでに協力的であった農民に地下足袋の試用依頼をし、どのように利用するか調べる事を目的とした。その結果、穀物の刈り取り作業時の使用のみならず、寛ぎの履きもの好まれて使う、さらには兄弟、友人間で、共有される習慣があることがわかった。 地下足袋の製作に関する調査では、2017年1月21日に報告者と地域住民によってEthio-Tabiと名付けられた、現代エチオピアにおける履物の技術文化によって製作された地下足袋の試作品が完成した。製作者によると、製作費は労働賃や資材の運送費を除いて74Birr≒370円であると語った。販売に関する予備的調査では、農民は120Birr≒600円で地下足袋を売り買いする場面を観察した結果から、この製作費は現地の商売として採算がとれることが示唆された。エチオピアの技術文化によって制作され、農民の足を護る地下足袋がEthio-Tabiとして、今後農民たちに普及する可能性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた研究計画よりやや遅れている理由は、1政治的不安定、2地域住民の地下足袋に対する強烈な欲求、3製作に関する職人の不足、という課題に現地調査で直面したためである。 2016年10月10日から22日までの間に、首都から調査地のオロミヤ州のウォリソまでの公共交通機関は全て停止し、エチオピア政府は国の非常事態宣言を発令した。調査地を含むオロミヤ州の各地では、政府に対する不信感からデモが多発し、それを制圧しようとした政府との対立が深まるなかで、政府系の施設が、オロモの人びとによって、焼き討ち、略奪されるという状況にあった。そのためフィールドでの安全な調査の可否を判断するための情報収集に時間を費やし、当初予定していた期間よりも大幅に遅れて11月21日に本格的に調査をはじめることとなった。 当初予定した、地下足袋30足の農民への試用依頼は、19人目に依頼してから、報告者を強烈に悩ます課題となり発展していった。地下足袋を得た10代の青年が、本研究の意図とは反し、多くの地下足袋をタダで配られているという情報を地域住民に拡散した。その結果、毎朝30分近くの強請りにくる青年達や、世話になっている世帯の労働の見返りとして地下足袋を要求してきたり、鎌をもって足につきつけながら脅されたり、地下足袋を盗まれるという事態に見舞われた。このような報告者の経験は、当初予定していた、地下足袋の利用実態に関する調査から、安全を考え、身を遠ざける原因ともなった。 製作に関しては、調査地で唯一発見できた靴職人の多忙さが進捗状況に影響している。多くの注文を抱えている彼は、地下足袋の製作に関しては積極的な姿勢を見せるものの、実行には容易には移してもらえなかった。さらに彼の工房が道路拡張作業のため、とりこわされるという事態が12月22日にあったこともあり、当初の計画より製作に関する調査は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現代エチオピアにおける履物の技術文化によって製作される、現地の人びとを中心に主体的に履かれる地下足袋を「Ethio-Tabi」とよぶことし、28年度の調査で完成した試作品につづき、生産数を増やすことを通じた製作に関する技術文化の調査をより深めていく。試作品を日本に持ち帰り、関係者に評価をしてもらったところ、足袋先の改善や、留め具であるコハゼをどのように現地で確保するかなどの課題があげられたものの、十分な地下足袋の製作技術がエチオピアに存在していることがわかった。試作品製作者も地下足袋専用の鋳型を手に入れ、靴職人の友人などの力を借りれば1週間に100足は制作できると語っている。29年度に予定している8月と9月に1ヶ月で予定しているフィールドワークでは、300足の製作を目指すための、機械や技術の導入、国内での協働の可能性など、製作実践に関する調査に重きをおいてすすめていく。 また完成したEthio-Tabiを製品として評価するのみならず、エチオピア農民の履物としての可能性も評価するために、今後は試用依頼のために配るという行為は避け、貸し出すや、販売するといった方策を具体的に検討する。生産数がある程度増えてきたところで、当初の計画とおり、Ethio-Tabiの広告・宣伝に関する調査も開始する。具体的には、現地のTVやラジオを用いて、具体的な研究計画を広く共有する。その周知の事前策として、地域有力者などには事前に情報を共有することを徹底し、おおくの協働をとりつけながら、研究が安定的に推進していく研究体制を構築することを目指す。
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