研究期間の最終年度にあたる今年度は、第一に、これまでに収集してきた文献・史料の整理・分析を進めるとともに、これらを補う史料を渉猟するためにモンゴル国の歴史中央公文書館において調査を遂行した。また、昨年度来分析を進めていたW.W.ロックヒルが1913年末にモンゴルに滞在した際に綴った日記および彼に送られたモンゴル語の手紙とその翻訳に関して国際会議で報告を行った。 第二に、ロシア帝国の将校にして東洋学者、軍の諜報員であったポルモルドヴィノフの文章を、彼と親交があった服部重直に関する資料、さらにポルモルドヴィノフが日本から叙勲されていたことを示す資料とともに再版し、解説文をモンゴルのバトサイハン氏とともに執筆した。 第三に、モンゴルのナショナル・ヒストリー形成におけるソ連史学の影響を考察に加えた「モンゴル(人民共和)国におけるナショナル・ヒストリーの形成と変容」と題する報告により、この3年間の研究成果を総括した。この報告では、漢語文献をもとにした、漢語で「胡」や「夷」と呼ばれた匈奴や突厥などの集団全てをモンゴル史に加えていた1920年代・1930年代のモンゴルのナショナル・ヒストリーが、1950年代になるとソ連史学の影響からか、その執筆範囲が当時の領域に限定されていった過程を指摘した。ただ、ソ連史学のモンゴル史学への影響については、具体的な史料により実証することができなかったため、この問題は今後の課題として残された。
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