2022年度は研究実施計画に従い、引き続き「女性同性愛に関する史料調査・分析」および「研究課題の包括的考察」を行った。これまで収集した史料の調査及び分析を進めるとともに、新たに都市部と地方部など地域差の視点を取り入れつつ、研究課題の総まとめとなる考察を行った。 2022年度は研究の一環として『歴史評論』867号に論文「男性同性愛の歴史と雑誌メディア」を、また『マイノリティだと思っていたらマジョリティだった件』(松井彰彦・塔島ひろみ編、ヘウレーカ)に「マジョリティだったり、マイノリティだったりする私:権力の誤配をただし続けていくために」を発表した。前者は日本におけるクィア・ヒストリー研究の文脈の中で、後者は地域差もふくむ「中央/周縁」をインターセクショナルな視点からとらえ直す中で、女性同性愛と男性同性愛の違いなど、性的マイノリティ内部の差異について考察した。また共著『「地方」と性的マイノリティ:東北6県のインタビューから』(杉浦郁子・前川直哉著、青弓社)を刊行し、第3章「「LGBT」内部の差異とジェンダー」では東北地方の活動におけるゲイ男性の少なさを指摘するなど、本科研費研究によって明らかにしてきた性的マイノリティにおける男性同性愛者の位置づけについてより発展的な内容へと分析を進めることに成功した。 研究期間全体としては、新型コロナウィルス感染症の流行拡大の影響等により当初計画からの遅延が一部生じたものの、「戦後日本のそれぞれの時代において、男性同性愛者がどのような親密な関係性を取り結びたいと希求していたのかについて、言説分析の手法を用いて実証的に解明する」という本研究の目的は十分に達成し、複数の論文等で成果を発表できた。また期間の後半ではさらに都市部と地方部など地域差の視点を取り入れた研究へと発展させることができ、複数の成果を発表した。
|