研究課題/領域番号 |
16K16670
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
臺丸谷 美幸 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 特任リサーチフェロー (40755394)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エスニシティ / ジェンダー / 二世兵士 / 朝鮮戦争 / 冷戦 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ合衆国市民として、朝鮮戦争(1950-1953年)へ従軍した日系アメリカ人(日系人)に関するものである。主な従軍者は日系二世の男性であり、僅かながら女性志願者もいた。そこで従軍経験のある日系二世(二世兵士)の男女を調査対象とし、調査地域は西海岸カリフォルニア州と設定した。朝鮮戦争期の特徴は、日系二世たちが人種隔離部隊から通常の人種混成部隊へと編成された点にある。この時代、米軍においてジェンダーとエスニシティを基軸とする大規模な人員統合、軍備再編が行われたためである。 今年度は、初めに朝鮮戦争期における二世兵士の社会的イメージの解明を目指した。まず、日本国内で入手可能である『Pacific Citizen』や『羅府新報』など、当時の日系人コミュニティに購読されていた新聞記事や、当時の映画・小説における二世兵士像の分析を進めた。次に2016年8月12日から9月3日の日程で、カリフォルニア州でフィールド調査を実施した。調査の目的は、①1950年代当時のアメリカにおけるエスニシティとジェンダーを巡るポリティクスは、日系二世の社会進出にいかなる影響を与えたのか、②また当時の二世兵士に対する社会的待遇や社会的認識は、現代における日系人退役軍人としての彼ら/彼女らの顕彰活動といかに結びついていくのかを明らかにすることであった。調査では退役軍人に対するインタビュー調査、UCLA附属図書館や日系人関連団体にて、資料収集を実施した。また、ロサンゼルスの日系人街(リトルトーキョー)で毎年開催される日系人の祭りNisei Week(8月13-14日)において日系人朝鮮戦争退役軍人会に同行し、参与観察した。これらの成果を元に第1回「冷戦とジェンダー」研究会(お茶の水女子大学ジェンダー研究所主催)、ジェンダー史学会第13回年次大会などで口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況は概ね順調である。本年度の研究課題は「朝鮮戦争期の二世兵士における社会的イメージの解明」であり、日本国内での新聞記事を使用した資料分析、アメリカ・カリフォルニア州内でのインタビュー調査など概ね従来の計画通り実施できた。 次年度以降は今年度の成果を基に、投稿論文や、単著刊行を目指して原稿執筆を進めていくことが重要となる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度にあたる本年度の研究では、資料調査・分析やフィールドでのインタビュー調査を実施しながら、報告者が以前より蓄積してきた当該研究をより深化させてきた。特に二世兵士の従軍経験の実態把握と、現代における日系人退役軍人の顕彰活動についての考察を深めるために、新たに調査・分析を重ね、朝鮮戦争期の二世兵士の全体像について解明することを目指した。来年度は、これらの知見を基に、発展的、重層的に朝鮮戦争期の二世兵士の記憶と経験について解明していくことを目指す。特に「1950年代の日系アメリカ人に対する社会的待遇の改善にはいかなる背景があったか」という点に焦点を当て、1950-60年代に興隆していく公民権運動と、第二次世界大戦以後の日系人の社会参入との関連について考察する。例えば、1950年代の軍隊における待遇について、人種間格差の有無について日系人以外のアジア系アメリカ人や、黒人の事例と比較検討する。アジア系の中で日系人のみが第二次世界大戦後まで人種隔離されていたが、最も長く人種隔離されていたのは黒人だったからである。 次に、「二世兵士におけるジェンダーの差異による従軍経験の違いや、帰還後の待遇、帰還兵としての経験」について考察する。二世男性よりもさらに実態が明らではない、二世女性の従軍について検討する。現在実施している数名を対象としたオーラル・ヒストリー調査だけでは限界があるため、既存の文書資料、口述資料を丹念にたどっていくことも併せて重要である。さらには同時代、1950年代に軍隊ではない専門職に就いた二世女性たち、日系人以外のアメリカ人女性たちの従軍経験について比較検討していくことで、日系人女性の従軍者の社会的立ち位置について当時のアメリカ人女性の立場を複合的に考察しつつ明らかにしていく。 次年度以降は、論文執筆に重点を置き、2019年度内を目途に単著刊行を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額については、当初の計画では英語論文執筆時の校正費用に充当と計画していたが、計画変更となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
英語論文執筆時の校正費用
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