研究課題/領域番号 |
16K16673
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
菊池 美名子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 薬物依存研究部, 科学研究費研究員 (80769836)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自殺 / 自傷行為 / ジェンダー / トラウマ |
研究実績の概要 |
本研究は、ジェンダーに基づく暴力が自殺関連行動に及ぼす影響について、(1)その実態を社会学、ジェンダー学、医療人類学、発達心理学、精神医学等の学際的視点より明らかにし、総合的理論を構築すること、(2)暴力被害当事者らによる自助グループや当事者研究、メディア発信・アート表象などの活動に着目し、医療モデルを超えた予防的介入やケア、回復のあり方について明らかにすることを目的とする。 平成28年度は研究初年度のため、研究全体の実行計画を具体化し、連携研究者および研究協力者との共同研究体制の構築、役割分担の明確化を行った。フィールド調査の他、多分野にまたがる国内外の研究者及びトラウマ臨床や小児医療、発達心理の専門家と意見交換、事例検討、共同研究を進めた。論文執筆、学会発表、講演等により成果の発信に努めた。年間テーマを「自殺対策におけるジェンダー・セクシュアリティ理論の射程」とし、特に以下の研究活動を行った。 (1)に関連して、年間テーマに沿った国内外の関連文献整理とオーバービュー、分析を行った。日本の女性の自殺死亡率は国際的に見て極めて高い状態が続いているにも関わらず、女性の自殺の背景や特徴を明らかにするための研究は国内ではほとんど実施されていない。そのため、欧米の先行研究を中心に文献をレビューし、女性の自殺とジェンダーについて検討した。 (2)に関連して、自殺関連行動に関する文化社会的実践について、カナダより海外研究協力者を迎え、共同研究を実施した。共同研究会議を開き、文献の共有、日本と北米の当該研究状況について情報交換しながら理論的討議を行った。特に、日本国内の女性向けマンガ作品における自傷行為の描写とその読者への影響に着目し、関連文献及び資料の収集・整理を行った。また、内容分析によるパイロット・スタディを実施した。結果を国際会議で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「研究実績の概要」に記したように、相互に関連する二つの研究調査を柱としている。そのいずれについても、初年度(平成28年度)において、若干の課題を残しつつ、おおむね順調に進展した。 まず(1)に関しては、欧米の先行研究を中心に文献をレビューし、性的虐待等のACEs(Adverse Childhood Experiences: 幼児期逆境体験)がもたらすトラウマ-アタッチメント問題や解離、ドメスティック・バイオレンス等の家庭内における暴力や葛藤体験が女性の自殺リスクに及ぼす影響など、女性の自殺の背景や特徴とそこにおけるジェンダーに基づく暴力の位置付けについて論点を整理することができた。また、当初の計画を拡大させ、半構造化面接による自殺実態の解明を目的とした他研究プロジェクトに研究協力者として関わり、ジェンダー・センシティブな質問紙への改訂に向け提言を行ったが、その際に本研究調査結果を基礎資料として用いた。 また(2)に関しては、パイロット・スタディの結果を国際会議で報告したほか、今後論文化される予定である。フィールド調査と記録も進行させており、交付申請書に記載した予定通り進捗している。一方、本研究に関して平成29年2月に予定していた海外出張が、講演予定と重なったため次年度に延期されたが、研究計画全体の遂行に大きな影響はない。 以上を総合して、現在までの進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に準じて、調査と分析を進めていく。平成29年度は、年間テーマを「自殺関連行動とトラウマ-アタッチメント問題」とし、臨床事例の検討、文献研究を行う。また、暴力被害当事者らによる地域における社会文化的実践について、引き続きフィールドワーク及び記録を行う。論文や著作の執筆、研究発表を通じて、平成28年度の調査結果を含めた成果の発信に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外出張が次年度に延期となったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
予定通り延期となった海外出張を執り行うほか、可能な限り研究調査の拡大と充実に予算を投じていく。
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